作品
喧嘩とは互いの顔も見たくないということらしい
全員が一同に会す朝食の席で、それは、どうみてもおんぶおばけだった。
「……なにしてんだ、あんたら」
すでに大広間にいた刀剣男士たちで誰が声をかけるか無言で譲り合った挙句、圧力に負けた薬研藤四郎が一歩進んで問うと、ただでさえ常よりもしかめっ面で白いおんぶおばけを背負っている大倶利伽羅の顔がさらに歪んだ。
「内番は行かせる」
しゃり、と鎖がなって背後から大倶利伽羅の首に巻き付いている腕に力が入ったのが見ているだけでも分かったが、それを軽く叩くだけで何事かの意思疎通を測ったらしく、白い被り物の下でかすかに頭が動いたことがわかる。さすがに邪魔だと思うのか、配膳の当番でもない二振りは誰に促されるまでもなく部屋の隅へと寄った。さほど凝ったものは並ばない朝食の席は大きな座卓ではなく、個々の膳で配膳される。うち一膳を背後において大倶利伽羅が座ると、背後のおんぶおばけは一度離れて、背中合わせに座り込んで膳を引き寄せた。
「あー、鶴丸? 朝食に全員集合というのはそういうことでは」
「細かいことは気にするな、へし切。少なくとも食事を取ろうとしてるなら大したことじゃない」
なんとなく小言係のようなものを請け負っているへし切長谷部が膳を運び終えて果敢にも向かっていったがふい、と顔をそらされたところを、そっと鶯丸が肩をたたく。
「しかし」
「そうだよ、長谷部くん。絶対に後で後悔するよ」
最後に厨を出てきた燭台切光忠が広間に入ってくると、各種調味料を揃えたかごを端に座るものにわたした。
「はい、目玉焼きには好きなもの掛けてね」
審神者のこだわりにより、調味料は古今東西様々なものが揃っている。人の味覚があるなら好きなものを探しなさいという審神者は実は偏食なのだが、偏食が故にほかのものの味覚に優しい。かごはつつがなく全員に渡り、最後に大倶利伽羅が受け取ってソースを自分に、ケチャップを背後に渡す。
揃っていただきますをして、ばらばらにごちそうさまを終える頃には、大倶利伽羅の隣には膳を並べた鶴丸国永がいて、いつもの様に二振り並んで厨に下げる膳を抱えて大広間を出て行った。
うっかり、というよりも気にして度々様子を確認していたへし切長谷部はその様子を目撃して思わずそのまま隣に座る燭台切光忠を振り返る。
「だから後悔するって」
どこか遠いところに視線をやりながらも燭台切光忠がぽりぽりと漬物をかじれば、そのさらに隣で鶯丸が頷きながら茶を啜った。
「あれはただの痴話喧嘩だ」
「喧嘩?」
へし切長谷部の知る喧嘩は少なくともおんぶおばけになることではない。
「もとは小竜のほうが始めたらしいがな。喧嘩して顔も見たくない時に一番顔を見なくて済むのは背中にひっつくことだろう?」
ワンドロお題/喧嘩
「今日は多分、目玉焼きに何かけるかで喧嘩したんじゃないのかな。あっという間に仲直りしてたから」
- 2015/05/09 (土)
- ワンドロ
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