作品
雨の日の手遊び
存外にあれは器用だと確かに聞いたことはあったが、燭台切光忠は今目の前で鶴丸国永が何をしているのか咄嗟にわからなかった。
ここでは雨の日は出撃がないどころか、各々の御殿からでるものさえ少ない。時間の過ごし方はそれぞれだが、大抵は日々に手が回っていないような雑事を片付けるとするものが多かった。普段からあまり物事を貯めこまない者達にとってはぽっかり時間が空いて、暇を持て余す日でもある。前の雨の日は自堕落に過ごしてみようと一日自室の床に転がってみたのだが、とても時間を持て余して一日の終わりが遠かったし、ひどく無為な日を過ごしてしまったと暫く引きずった。
今日は部屋を出たのは、ひとつはこれから梅雨に入り雨の頻度が高くなると聞いたからだった。そのたびに部屋で終わらぬ一日にいらいらするのは何かがよくない。
手始めに、いまだに足を踏み入れたことのない場所のある三の丸をくまなく歩いてみようと屋根裏をのぞいてみれば、そこに先客がいた。なぜか山と積まれた藁が湿気のある空気の中で鼻をつくなか、鶴丸国永が楽しげに手を動かしている。燭台切光忠が上り口に顔だけを出した格好なのにまるでこちらに気づくふうがないのも珍しい。
邪魔になるだろうかと相手が顔をあげないうちに引き返そうとしたら名を呼ばれた。
「来ても構わんぞ」
顔はあげぬまま、手も止めぬまま、それでも鶴丸国永が笑ったので燭台切光忠はそろそろと残りの階段を上がって彼の正面へと赴いた。積んだ藁からひょいひょいと数本抜き出してはなにか細い紐のようなものを延々と編んでいる。
「それ、麦藁です?」
この山城の畑で育てていて、藁が取れるものは麦だけだ。
「ああ。日差しが強くなってきたからな。これで帽子が作れるのではないかと思ったんだ。藁を編むのも久しぶりだが、手が覚えてるものでな」
口を動かしつつも、手の動きはまるでよどみがない。たまに、大倶利伽羅と鶴丸国永の二振りは雪深き奥州の地で何をしていたのだろうかと疑問に思う。少なくとも燭台切光忠は己がいた家でその手のことに手を出そうとは考えたこともなかった。
「それ、帽子にするのは大倶利伽羅ですよね」
「あたりまえだろう? 適材適所だ」
にやりと笑う彼は根気のいる仕事は好きではないというわりに、編まれた紐は随分と長くとぐろを巻いている。
「けっこう頭をつかうんだ。やってみるか?」
それはあまりに意外な提案で、珍しく虚をつかれておとなしく頷いた。
そうして編み始めてみた紐は散々な出来で、君にも得手不得手はあるんだなあと感心されて再戦を誓ったのはしかたのないことだと、思う。
燭鶴ワンドロお題:慣れる/雨
- 2015/06/08 (月)
- ワンドロ
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