作品
おちた
「借りる」
その鶴丸国永のひとことでずるりと左腕から竜が抜けた。大倶利伽羅の刀身に棲んでいる倶利伽羅竜は諸事情もあり鶴丸国永によく懐いているし容易く力を貸してしまう。それでも唐突に引きずり出してまで連れて行かれることは滅多にない。それだけ急を要するのかと振り返れば彼の姿は既になかった。それが妖術の類を使ったのではなく、すぐにはそこにあるとわかりづらい崖の下へと飛び降りただけだとわかって溜息をつく。何度も通って慣れた道であっても、想定外の事故は起こる。もう一振り、姿の見えない刀剣が迂闊に道を踏み外したのだろうことは想像に難くなく、大倶利伽羅は先を行くものたちを呼び止めた。
幸いだったのはここがすでに綿密な調査が行われた後であることだろう。事情を聞いた部隊長である山姥切国広がすぐに地図を開いて合流地点の見当を付けたところを見ると、先例もあったのだなという推測もついた。
「鶴丸に伝える手段はあるのだろう?」
「あるにはあるが——」
至極当然のように問われてなんと言ったものかを悩んでいるとひょこりと倶利伽羅竜が帰ってきた。鶴丸国永だけならこれくらいの高さは咥えて飛べるのだが、さすがに縁の薄いものを共には持っては来れなかったらしくふよふよと何かを訴えるように頭の周りを竜が回る。ずいぶん回りくどい手をと思わなくもなかったが後での説明の手間もいらないのはありがたいといえばありがたい。
隣にいた山姥切国広がなるほどと手にしていた地図をくれたのを折り畳んで竜に咥えさせる。
「鶴丸のところだ」
それだけ告げて頭を撫ぜてやればもう一回転したあと崖下へと竜が戻っていく。
殿をつとめていたのに落ちた馬鹿と、それに気づいて何も言わずに後を追った馬鹿のどちらを怒るべきかは未だ決めかねていた。
これの大倶利伽羅側
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- 2015/06/23 (火)
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