作品
とろける甘さ
「燭台切、大倶利伽羅に砂利を食わせたっていうのは本当か」
鶴丸国永のその声にいつもの軽さはまるでなく、思わず燭台切光忠の冥福を祈ったとはその場にたまたま居合わせた歌仙兼定の後の言だった。
§
鼻先につきつけられた淡黄色の箱から漂う甘ったるい匂いに大倶利伽羅の所業を悟って燭台切光忠が思わず笑えば、目の前の白い太刀が少しだけ警戒を解いてくれた。
「たしかにそれを倶利ちゃんに出したのは僕だよ」
箱を一度取り上げて中を開けば思った通り、少しだけかさのへったじゃりが入っている。何度見ても、その正体を知っていても砂利にしか見えない。
先日、かねてよりの宣言のとおりにそれを供した後に残りがあったらほしいと言ってきた大倶利伽羅の意図は今になって漸く分かった。しかし、これでは片手落ちだとも思う。鶴丸国永がこうして燭台切光忠のところに物申しに来ている事自体が、大倶利伽羅にとっては想定外なのは違いない。
「鶴丸さん、口開けて」
きょとんと目を瞬かせつつも素直に言うとおりにする相手に若干の不安を覚えつつ、つまんだじゃりを一つ口に放り込むと、訝しげだった顔が少し間をおいて緩んでいく。じゃりは見た目は完全にただの石だが、舌の上で溶ければ甘いミルクチョコレートに他ならない。
「驚いた! これは食べ物か」
これを聞きたかったのだろうにと大倶利伽羅へわずかばかりの憐憫を覚えながら、まだ顕現したばかりで余り物を食べたことのない鶴丸国永にもう一つチョコレートを摘んで差し出せば、今度は指先から直接食べた。わかりやすく顔が緩むのが面白くて、ついつい続けて与えてしまう。せっせと巣に餌を運ぶ母鳥にでもなった気分だった。
「……何をしてるんだ」
我に返ったのは厨の入り口からあきれはてた声がしたからだ。ふと周囲に意識を向ければ先程までいたはずの歌仙兼定がいなくなっていることに気づいてはじめて悪いことをしたなと思う。彼がきっと最初ここに来た時の鶴丸国永の剣幕に気を回して大倶利伽羅を呼んできてくれたのだろう。とある騒動の後日譚としてじゃりを大倶利伽羅の皿に盛って出したときのことも彼は知っている。
「この砂利うまいぞ、大倶利伽羅」
屈託なく笑う鶴丸国永に大倶利伽羅が深い溜息を付く。
「……知ってる」
そこにもう一言言えばいいのに、と鶴丸国永の様子を窺えば何もかもわかったような柔らかな顔で笑っていて、臓腑の奥が一瞬だけつきりと痛みを訴えた。
その痛みの理由を、燭台切光忠はまだ知らない。
加藤さん(@k_a_1_0)の誕生日おめでとうに加藤さんのネタから三次創作
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じゃりチョコレート
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- 2015/06/22 (月)
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