作品
目をあわせたその一瞬、
斬られると思ったその瞬間にその目は燭台切光忠の上を素通りしていった。
鮮烈な金はいつだってこちらを見ないことはとうにわかっていた。認識はされているのだろうとは思う。呼ばう声がいつも『そこの黒いの』であってもたしかに己にのみむけられるものだからだ。
そもそも彼はほかのものも誰一振りとして名で呼ばうことがない。いろいろな場所をてんてんとして、顔見知りも多い彼はおそらく一番長くいるのであろう禁裏の知己に対してすら緑の、だの、青いの、だので呼ばうのを聞いたことがあった。呼ばれた方も慣れたものでそれぞれの名を主張することもなく穏やかに応対していたことを覚えている。
呼ばないのか、呼べないのか、あるいはそのどちらでもないのかを問いただすほどの仲ではなく、ただ『そこの黒いの』と呼ばれるのを密やかに待っている己に気づくたびに、反吐が出る、と思うのだ。
白海の燭鶴へのお題は『目をあわせたその一瞬、』です。
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- 2015/08/13 (木)
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