作品
眠れない夜が明けた朝の話
眠れなくても朝は来る。
日の出から少し過ぎた頃に、目覚めのいい古馴染みが隣に転がっていた部屋の主を認めてバツの悪い顔をしたのを確認して、南泉一文字は山姥切長義を寝台から蹴り落とした。
「着替えは? ってわかった。あとでまた来る」
落とされた方も心得たもので特に文句を言うわけでもなく、最低限の確認だけをしてきたので、よろしくと声を出すのも面倒で手を振る。
参加義務のある朝食へ寝過ごす心配もなくなったので、静かに襖が閉じられる音を聞きながら改めて布団を頭から被れば、意識はすぐに闇に落ちた。
夢も見ない眠りは長いようで短かった。
すっきりしないまま、支度を整えて戻ってきた古馴染みに渡された蒸しタオルは疲れ切った目には心地よく、全身を拭いたあとに、服も替えを渡されるままに着込む。ここ数日着たきりだったので洗濯したての布の手触りがとてもありがたい。
どうにか支度を整えてもらっても、全員が集まれる食堂は二の丸にあるとはいえ自室はあまりに端っこにあって歩くのも面倒だなと考えていたこともばればれだったのか、無言で背負われたのでおとなしく力を抜いた。適度に揺れるのがまた眠気を誘って目を閉じる。とはいえ同じ建物内だし、深く眠ってしまう前に食堂には着いた。
「どうした、山姥切長義。南泉と喧嘩でもしたのか?」
「うん? おはよう長谷部くん、喧嘩をした覚えは特にないかな」
朝が早いほうであるへし切長谷部が来る頃合いの室内はまだ閑散としていて、朝食が始まる時間まではまだ掛かりそうだった。もう少し部屋で眠れたのではと思うも、眠さに死んでいる己の支度時間について余裕を見た結果だというのはわかっているので口には出さない。
「おはよう、長義の。南泉と喧嘩か?」
「してないよ、愛染くん……おはよう」
明石国行に愛染国俊が窘められるのを横目に、入口近くにすでに用意されていた膳の前に降ろされたが、時間があれども古馴染みが傍らにいる以上横になることも出来はしない。
「ねむい」
「はいはい」
言葉の裏側で要求したとおり上に羽織ったジャージのフードを被せてもらえたので、遠慮なく立てた膝の間に顔を埋めた。起こそうとつつかれることに比べれば、手首を握られているぐらいはまだ我慢できる。人の体があるというのは、不便なところと、便利なところが表裏だと南泉一文字は思う。
「山姥切おはよーう! 南泉と喧嘩しました?」
「鯰尾まで……してないよ」
「いやあ、おんぶしてたって聞いたからつい」
なんだそれはと、夢うつつに考えるも、睡眠が足りていない頭を上げるところまで行かない。
「ともかく、俺のせいで猫殺しくんが寝れなかったからね。面倒ぐらいは見るさ」
「――あれ? 南泉、今朝戻ってきたんじゃないんです?」
「夜中だったよ」
古馴染みたちの会話をぼんやり聞いているうちに、いつの間にか全員揃ったのか、いただきますの唱和が響いたので、手を合わせて味噌汁に手を伸ばした。疲れ切った体に出汁が染み渡って少しだけ目が覚める。膳には徹夜明けの胃に優しい味噌汁しかなかったので、食事はすぐに終わって席を立つ。片付けは寝不足の元凶がするだろうと、食堂の襖に手をかけたところで、結局傍で食べていたらしい鯰尾藤四郎が焦ったように南泉一文字の裾を掴んできた。
「あっ、南泉どこ行くんですか?」
「そいつが入れないとこで寝てくる……にゃ」
わずかばかり目が覚めても、噛み殺しきれなかった欠伸が零れる。
「鯰尾、放す……にゃ」
渋々手を放す鯰尾藤四郎の様子は気にならないでもなかったがとにかく今は眠かった。
「猫殺しくんはおやすみ」
早くそれを夜に言えるようにならないかと思いながら、後ろ手に襖を閉める。
目指す場所は決まっていた。
ちょうぎくんが不法侵入したなんせんの部屋で眠る話(http://drd.cute.bz/log/gallery.cgi?mode=view&id=1566059408)の続き。
なお、ピアノ部屋に寝に行くよ。
おんぶしてると喧嘩の話はこっち(http://drd.cute.bz/log/gallery.cgi?mode=view&id=1431100518)
- 2019/08/18 (日)
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