作品
アムリタ
視界はとうに霞がかかり、疲れ切った四肢も動かせない。後頭部にあたる薄い肉の感触と低い歌声がかろうじて意識を繋ぎ止めていた。人を模した体は手足が千切れるだけでなく、血が流れすぎても動けないのだと初めて知った。折れた肋骨が肺に突き刺さっているせいで声も出なくて、ただ息が漏れる。
意味の取れない言葉の羅列は血腥い戦場に響くにはあまりにも清廉で場違いだと思うのに、声色が震えを必死に押し隠すせいで洩れいずる悲壮感がそれが何のための歌なのかをむざむざと表している。
やがてぽたりと落ちてきた水滴はどうしようもなく熱く、その熱をもう自分が持ち得ないことを、ただ残念だと思った。
それは祈りのうた、いのちの水
白海の燭鶴のお題は、『Benedictus qui venit in nomine Domini.(祝福があるように)』です。
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- 2015/09/25 (金)
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