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幸福な物語の、辿り着くところ
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201403
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20140314
最終手段
だめだよアンナ、と柔らかい声で制止がかかる。後ろから伸びてきた掌がわたしの目をしっかりと覆って、だめだよと同じ声がもう一度囁く。アンナがあれをみたら共感をしてしまう。それは本当に最後の手段にしておかないとアンナが倒れてしまうよ。そうわたしを止めたタタラはすべてを引き受けて倒れた。
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20140315
自分のモノには名前を書きましょう。
自分の肩に浮き出た徴をどうにか見ようと十束がくるくると回っている。尻尾の先を追いかけている子犬に似ているが、こいつがそんなに愛らしい小動物である筈がない。やがて回り疲れた子供に鏡を差し出してやれば膨れつつもひとしきり堪能したあとでこの隣に周防尊って書いてよと言い出したので殴った。
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20140316
無条件降伏
覚悟していたとはいえ予想以上に物がない部屋だった。片付いているのではなくただ単に何もない。色あせたカーテンと擦り切れた畳だけが住んでいるものがいたという痕跡を残している。数少ない持ち物はすべて押し入れに入っていて、その片隅に見覚えのある毛布が人が抜け出した形のまま残っていた。
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20140317
捨てられないガラクタ
思い出というものを大事にしろと言われたからわからないなりにせめてものをのこそうとしているのに、大事にしろっていった本人が捨てろというのは理不尽だと考える。もちろん口に出しはしなかったけれど
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20140318
それ以上は許さない
「その空っぽの頭も穴をあけたら耳もよく聞こえるようになるかな」と端整な顔立ちが台無しになるようなゆるい笑みを浮かべて青年がいう。警告は三度までだったはずだと反駁したらなんの前触れもなく突きつけていた拳銃が融けた。同時に加熱された鉄が掌を焼く。「限度もあるって言われなかった?」
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20140319
幸せにするよ
幸せってなんだと聞けば首を傾げ、不幸ってなんだと聞けばなったことないからわかんないという。一般的にはこいつは不幸なこどもであったはずだった。だが本人にとっては不幸ではないのだ。あっ、と声をあげた十束の言葉の先を促すと、俺の幸せはキングだよと言い出したので殴ると不幸だと膨れた。
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20140320
ご機嫌取りも楽しみのひとつ
ご機嫌な顔で鼻歌を歌いながら十束が真っ赤な何かを練っている。こういう時の十束はいつにもましてろくなことを企んでいない。やがて出来上がったものは当然のように尊に供され、王様は出された菓子に素直にかぶりついた。思わず辛くないんと聞けば十束が俺だってたまにはねと胸を張って殴られていた。
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20140321
最後は私と
なるべく傍にいるつもりだった。人には言わないでといわれた終わりを告げてしまったのは自分だったから。けれどもアンナは「以前」の十束を知らなかった。一番最初に、最後を見た。なにもしらないまま聞かれなかったのに、告げてしまった言葉は戻らなかった。だからせめて最後はと、思っていた。
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20140322
全部全部、君のせい。
「タタラはタタラが思うほど大事なもの、ないとおもう」「そうかな」「そう」「でもアンナのお陰でこわいことふえたよ」「……それは、いいこと?」「アンナのせいって言われたほうが気が楽?」「……そうかもしれない」だって、口にしてしまった言葉はもう戻らないのだ。
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20140323
世界の終わりに
「なにそれ」「考えたことないですか?」「ないなあ。明日のことだって考えたことなんかないよ」「なさそうですね」「でしょ。あ、でも最近はちょっとだけ考える」「ほう?」「アンナがね、今日はいつまでも続かないよって」でもやっぱりよくわかんない、というこどもを見下ろして死ぬのか、と思った。
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201404
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20140418
わかったか、あほ
わかってへんのやろな、と草薙は巻かれた包帯を邪魔そうにする年下の友人を見下ろした。もう一人のように危険にわかっていて飛び込むわけではないが同じようなことで同じような怪我を繰り返し負う。その十束がはじめて怪我を反省した時に草薙はやっとわかったかあほと口にはせずただ頭を撫でた。
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20140420
嘘の質量
「へーき」というタタラの自覚しない嘘は言葉の軽さに反してとても重い、とアンナは思う。しかしそれを嘘にしてしまったのはほかならぬ自分で、重みを感じているのも己一人で、「他の人には言わないでね」という言葉の重さを知らなかった過去のアンナだ。言ってはいけない言葉もあると知っていたのに。
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20140421
最後の言葉
その言葉を周防は直接は聞かなかった。不可視につながっていた紐帯が切れた感触を信じられず、今のは何かの冗談だといってくるのではとタンマツを手にしたところで草薙から着信があって、それを知らされた。ふと見なおした着信履歴に十束の名前は一度もなく、確かに電話が必要だったことなどなかった。
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201405
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20140506
きっとたぶん
きっと、と、たぶん、はどっちがほんとうなの、ときいてもタタラが不思議そうに首を傾げることを知っていた。言葉にする時点でタタラにとってはそれはうそではない。曖昧にしているつもりがない曖昧さの厄介さはあまりにもわかりづらくて、ただアンナは十束のシャツの裾を握りしめた。
> 201405 > 20140519
20140519
三時の雨宿り
なれた気配が近寄ってきた気がして夜中にふと目が覚めた。開け放したままだった窓からは細かな水滴が入り込んでおり空気がしっとりと湿っている。階下に下りて裏口を開ければ立てかけた傘の下で器用に体を丸めて眠る年下の友人の姿を認めて、周防はそれを担いで眠りについた街に足を踏み出した。
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20140520
日常崩壊寸前
カメラが壊れたと聞いた時に覚えたのは不思議なことに安堵だった。もう記録を取らなくていいのだと、ほっとすることが薄情の発露だと思っていた。思わず指でフレームを作ってしまう己に気づくまでは。
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20140521
関白亭主
「キングは殴れば俺が言うこと聞くと思ってる」と、十束がまさに殴られたばかりの頭を抱えながら嘯いて、周防はとっさに何も言えなかった。何をどう考えても殴るぐらいでいうことを聞く相手だったらこんなにいつもいつも雷を落とさずとも済んでいるはずで、理不尽を飲み込むためにもう一度拳を握った。
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20140527
愛の逃避行
「逃げようと思ったことはないの……なに?」「あなた、逃げるということを知ってるんですね」「知ってる。本当は、俺は逃げるべきだったんだ。七年前。あんな強い執着に捕まる前に」「捕まったんですか?」「王様は一人だけだからね」
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201406
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20140607
Marry me?
「タタラ」と袖を引いた少女に十束がことりと首を傾げる。「キングじゃなくていいの?」心底不思議そうな問いかけに手を引きはがされないように指先に力を込めた。「タタラがいい」少女は自分が壊してしまった鎖や檻のかわりになりたかった。
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201411
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20141118
小夜曲 第五番 01. 薔薇の花、ひとつ
それはお前のための花だ、とミコトは言った。本当なら一本だけではなく、束ねられてわたしの手元にくるはずだったのだと。包装もされていない赤い花。
ドライフラワーにしよか、とイズモは言った。それはたしかに最後にわたしに贈り物として残されたものなのだからと。お祝いのための赤い花。
他の人には言わないでね、とタタラは言った。わたしが最初にあの人に贈ってしまった未来を怒ることなく、自分も考えたことがあったと。残されたものはわたしのものであってわたしのものではない、赤い花。
だから、わたしは花を焼いて彼に返すのだ。なじってほしかった自分のために。
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20141117
世界の終わりに
世界が終わるためにはまず始まる必要があったのだとわかったのは終焉があると知らされたときだった。同時に覚えたのは、本当の終わりを自分が見なくてすむ喜びではあったのだけれども。
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20141122
恋して愛して、憎んでる
例えば、という言葉は好きではなかった。どれだけ仮定を積み上げてみても自らなした過去は取り返しがつかない。自分がこれまでも壊したものが元通りになどならなかったように、失うまで当然のように隣にいた体温はかえらず、二度と聞けぬ応答にどこかがじりりと火が吹いて焦げる。
「くそったれ」
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20141123
とっちゃ、やだ。
ソファの下に十束が転がっているのはさほど珍しい光景ではないし、ソファの上で周防が熟睡しているのもやはり珍しい光景ではない。周りに酒瓶が転がっているのもよくあることだ。とりあえず床に転がっている方を拾い上げれば右手に赤いペンを握りしめていて軽く引いても取り上げることは出来なかった。
> 201411 > 20141124
20141124
たった二人の世界
周防と二人の時、意外なことに十束はとても静かだ。階下にあれこれもちこんで草薙に怒られているとは思えないほどに、階上に何かを持ってくることもない。床に転がっているか、ソファの下で丸まっているかで、たまに周防が望んだ時に益体もないことをしゃべった。形のあるものは、まるで残さなかった。
> 201411 > 20141126
20141126
見てないけど
たまに、何の脈絡もなくキングは俺の頭をぐしゃぐしゃってなでる。二階から下りてきたときとか、昼寝から目覚めたときとか、本当に唐突に、こちらを見もしないで。そういうのが王様らしくてただずるいなって思うのだ。
> 201411 > 20141127
20141127
夢であえたら
夢を見たことがないと言ったら驚かれたことがあった。目を閉じてねむるのは何も見たくないからで、それ以上の意味はない。目を開けたら消えてしまうものなどに興味はなかった。
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