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20101016
「深夜の路地裏」で登場人物が「つよがる」、「指輪」という単語を使ったお話
 暗い路地で少女は膝を折って座り込んだ。忙しげに上下する背中をどうにかなだめて背後の壁に預けた。
 この道というのも憚られるような建物と建物の隙間は明らかに人が通ることを想定していない狭さなのに、無事に開くかも分からないようなドアがいくつも並んでいる。非常口という照明がところどころ点滅して何とか自分の役割を主張していた。
 握り締めた掌はいつの間にか硬くこわばっていて、震えが止まらない。皮膚に張り付いた赤い物が乾いてはらはらとスカートの上に落ちる。薬指にはまった宝石つきのリングも元の色が分からないぐらいに赤く汚れて輝きすら見えなくなっていた。
 頭上を見上げれば辛うじて瞬く星が見えて彼女はようやく安堵の息を漏らし、同時にそうして己の無事に胸をなでおろした自分を恥じた。
「――あたしは、助かった。だから……だからきっと大丈夫なんだから」
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