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		<title>私だけを呼ぶ声</title>
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		<title>愚か者たち</title>
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		<description>　南泉一文字が贈り物の箱の詰まった隣室を自室に選んだと聞いた山姥切長義が、馬鹿ではとこぼしたのに苛ついて反射的に手が出たのは仕方がないことだと思う。「おっまえ、どの口が言うにゃ」　誰が部屋を埋めたとい...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>　南泉一文字が贈り物の箱の詰まった隣室を自室に選んだと聞いた山姥切長義が、馬鹿ではとこぼしたのに苛ついて反射的に手が出たのは仕方がないことだと思う。<br />「おっまえ、どの口が言うにゃ」<br />　誰が部屋を埋めたというのかと睨んでも相手は堪えた様子がない。<br />「だっていくらでも部屋はあるだろう。確かにそこを猫殺しくんの部屋だと定めたのは俺だが鯰尾だって別にしていいといったはずだ」<br />　それは事実だった。実際、鯰尾藤四郎にここを私室にすると告げたら正気を疑われた。<br />「そうだけどよぉ……お前、オレがここをそのままにどっか別に部屋を選んだらどうするよ。この――箱の山をよ」<br />「持っていかせる」<br />　贈り物だぞ、と即答して胸を張る様子にはひとかけらの罪悪感も見当たらない。真実、南泉一文字のためを思って選んだのだからありがたく持っていくだろうと信じて疑いもしないのはいっそ立派だ。<br />「だからだよ」<br />　この部屋への不満は箱に占拠されていることだけしかない。どこへ移ろうともこのたくさんの箱がついてくるのなら、二の丸で一番陽当たりが良くて、隣に古馴染が居を構えてずっと南泉一文字を待っていたというここにいた方がずっといい。<br />「そういうものか」<br />「そういうもん……にゃ」<br />「ふうん」<br />　口調こそ素っ気ないものの、山姥切長義が嬉しさを滲ませるように顔を綻ばせるので、南泉一文字はそれ以上は何も言わずにただ深く息を吐いた。</p><p>------------<br />作中のお菓子類の参考（何一つ自分では作ってないんですけど参考にしました）（手作りバターの参考にしたページをロストしてしまった……）<br />クッバイタ（クロッカンテ）<br /><a href="https://www.kurashiru.com/recipes/691aa664-ea20-4973-b1db-9500099f0e38" class="top">https://www.kurashiru.com/recipes/691aa664-ea20-4973-b1db-9500099f0e38</a></p><p>シフォンケーキ<br /><a href="https://tomiz.com/contents/chiffoncake" class="top">https://tomiz.com/contents/chiffoncake</a></p><p>スコーンのレシピ<br />紅茶ハンドブック（監修　磯淵猛）1996年発行<br /><a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4262156494/ref=cm_sw_r_tw_dp_3NYCTAH52SNT8FGTVQRK" class="top">https://www.amazon.co.jp/dp/4262156494/ref=cm_sw_r_tw_dp_3NYCTAH52SNT8FGTVQRK</a></p><p>チョコムース<br /><a href="https://delishkitchen.tv/recipes/133123243346231681" class="top">https://delishkitchen.tv/recipes/133123243346231681</a></p><p>簡単にチョコを刻む方法<br /><a href="https://cookpad.com/recipe/2117756" class="top">https://cookpad.com/recipe/2117756</a></p><p></p><p></p><p>--------------<br />■そして世界は満ちる</p><p>　ぐぐっと伸びをした途端に腹から間抜けな音が響いて、南泉一文字は上体を起こした体勢のまま固まった。ふかふかとした広い寝台に今は自分しかいない。ヘッドボードの時計をたぐり寄せて、時刻を確認すればかろうじてまだ午前中だった。<br />　少しだけ悩んで、当初の予定通りに布団から出る。夜はこうして古馴染の起居する隣室で眠るようにはなったが、ここはあくまで山姥切長義の部屋であり、着替えも含めた殆どの荷物はこちらに持ち込んでない。寝間着のまま外に出て、隣の自室へと戻る。<br />　所狭しと贈り物の詰まった箱がぎゅうぎゅうと押し込まれている部屋はどう足掻いても生活するには向いていないが、南泉一文字はここから動く気はない。本当はこの部屋で寝起きすることも苦ではないのだが、半分に折った布団に包まっているとここをこんな風にした当事者が決まり悪げにするのでなるべく、隣室に邪魔をすることにしている。<br />　どうにか作り出した獣道をくぐり抜けて、普段着に着替えて再び外に出た。<br />　腹が鳴るのは空腹を感じてのことだとは知っている。解消するには何か食べればいいのだ。今時分なら食堂へと向かえば昼食が支度されているし、それ以外にも何かしらは食べられることも知っている。ただ、そうする気にはなれなくて、普段は山姥切長義がひとりで使っているこの対の屋にある厨へと足を向けた。<br />　歩きながら端末でぽちぽちと厨に常備されている材料で何が作れるのかを検索してみる。<br />　あるとわかっているのは小麦粉に塩や砂糖、卵、牛乳にバター、それからチョコレートやナッツ類にドライフルーツなんかで、思い立ったら何かを作れる最低限は常備しているのだと山姥切長義がいつだか言っていた。ゼラチンだのベーキングパウダーだのもあると聞いた記憶もあるがそういうなんだかわからないものはまだいい。<br />　ごくごく簡単に混ぜてフライパンで焼くだけぐらいのものでなにかと考えながら想定していたのはパンケーキだったのだが、殆ど同じ材料でベーキングパウダーがいらないもののレシピがふと目に入って作るものを決めた。簡単おいしいとうたっているだけあって、丁寧な軽量もいらないというのもいい。<br />　古馴染がいつもしているように最初に全部の道具を揃える。計量カップにボウル、泡立て器とフライパンにフライ返しとおたまを並べたところで何かが足りない気がして少し考えたが、すぐに気付いて焼き上がったものを入れる皿を追加した。<br />　それから、材料を探す。薄力粉というものが一番の難関かと思ったのだがあっさりと見つかったので、あとは牛乳と卵に砂糖ですべてだ。手順を紹介した動画を見ると、一度フライパンを火から降ろしたときに布の上に置いているようだったので不思議に思って、改めて調べ直すと濡れ布巾に置くことによってフライパンの温度を下げ、均一に熱が回るようにする工夫のひとつということだった。そういえば以前ホットケーキを作るところを見ていたときに同じような所作を見たなと厨をあさると布巾はすぐに出てきた。それからフライパンに敷く油と、それを広げるためのキッチンペーパーも手元に用意する。<br />　すべてを揃えてしまえば、材料はただひたすら混ぜ合わせていくだけだ。薄力粉と砂糖を混ぜたあとに牛乳、卵、牛乳の順で足していけば生地はあっという間にできあがった。不思議とほのあまい匂いがあたりに漂って生地を一口食べてみたくなったが、小麦粉は生で食べるべからずとことあるごとに自分自身に言い聞かせている古馴染のことを思い出してとどまる。何か作る度に聞くので、一度やらかしたか、あるいはやろうとしては燭台切光忠あたりに止められているのだろう。<br />　生地を広げるのはフライパンを火から降ろしている時という動画の指示のおかげで慣れない作業で手間取りつつも、あっというまに薄黄色のクレープが一枚、きれいに焼き上がった。やわらかなにおいが厨の中に広がってもう一度腹がきゅうと鳴るので、丸く焼けた生地の端っこを少しだけかじり取れば、においを裏切らないほのあまいもっちりとした感触が口いっぱいに広がる。<br />「よし」<br />　続けて残りの生地も焼いてしまおうと、もういちどフライパンを火にかけようとしたところでからりと厨の扉が開いた。手間はかからなかったとはいえども初めて尽くしのことでそれなりに時間は経ってしまっているから古馴染が昼食から帰ってきたのだろうと振り返ると、予想に違わず山姥切長義が立っていて、青い瞳を丸く見開いていた。<br />「猫殺しくん？」<br />「よお、お前も食べるか」<br />「たべる」<br />　ふらふらと近寄ってきた銀色の頭の口元にちぎったクレープを持っていけば、躊躇いなく食いつかれてさすがに驚くも、もぐもぐと飲み込んだ古馴染がもっとといわんばかりにもう一度口を開いたので、再び生地をちぎって与えてやる。それを繰り返しているうちに最初の一枚はあっという間に消えてしまい、南泉一文字の腹はもう一度ひもじさを訴えてきゅうと鳴ったけれど、不思議と胸は一杯でもう何も食べられそうになかった。</p><p>参考：生地がおいしいクレープ　<a href="https://cookpad.com/recipe/613525" class="top">https://cookpad.com/recipe/613525</a></p>]]></content:encoded>
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		<title>天使も踏むを恐れるところ</title>
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		<description>　日向正宗が鍛刀されたという報せを対の屋の厨にいた山姥切長義のところまで持ってきたのは、骨喰藤四郎だった。「そう」　返事がそっけなくなったのは、ちょうどグラニュー糖にはちみつを混ぜて鍋で加熱してるとこ...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>　日向正宗が鍛刀されたという報せを対の屋の厨にいた山姥切長義のところまで持ってきたのは、骨喰藤四郎だった。<br />「そう」<br />　返事がそっけなくなったのは、ちょうどグラニュー糖にはちみつを混ぜて鍋で加熱してるところだったからだ。砂糖は焦げ付きやすいから目も手も離せず、聞かされた報せは一度耳を素通りして、特に感慨を覚えることもなかった。<br />　新しい刀剣男士が来ることは、最近はそうそう頻繁にあることではないがそれでも珍しいというほどでもない。とはいえ山姥切長義自身も昨年の十一月にこの城へと顕現されたばかりで、今までは一番の新入りだったからこうした報せがどういう風に告知されるのかはよくわかっていないままだ。ただ、これまでにあったなにかしらの報せはすべて彼の兄弟であり山姥切長義の古馴染でもある鯰尾藤四郎が持ってきていた。気を遣われているのかとたずねたこともあったが、ただの仕事だと返されたことは記憶に新しい。<br />　だとしたら、通信端末にはすでに通知が来ているのかもしれないなと思うも、いつも通り厨には持ってきていないため確かめることは出来なかった。<br />　通信端末は緊急の報せを通知することもあるのだからいつも携帯しろと言われるのだとわかってはいるのだが、少なくとも厨では邪魔にしかならなくてつい部屋に置き去りにしてしまう。<br />「喜ばないのか？」<br />　骨喰藤四郎に不思議そうに首を傾げられて、つられて山姥切長義も首を傾げる。<br />「新しい刀剣男士が顕現されるのは喜ばしいと思うけれど」<br />　それ以上の感慨は特にはない。<br />　今現在、期間限定で実施されている限定解除の鍛刀は半月ほど行われる予定だと聞いていた。対象の刀剣男士は日向正宗と大般若長光で、この城に顕現していないのは前者だけだ。資源運用がうまいとはいえない主がここで狙うか、年始の報奨で貰うかを悩んでいたのは知っている。<br />　それがどうして自分が喜ぶことにつながるのだろうかと考えながら、ほどよく色づいて仕上がったカラメルにあらかじめ量っておいた胡麻をざらざらと投入したところでようやく理由を思い出した。<br />「あ」<br />　とっさに骨喰藤四郎を振り返るも、鍋の中で山になったまま固まってしまいそうな胡麻を放置も出来ず、すぐに視線を手元へと戻してヘラで崩していく。火に熱された胡麻特有の香ばしい匂いがあたりを漂い始めたが堪能するどころではない。とはいえ気が急いても出来上がりが早くなるわけでもなく、カラメルと胡麻がきれいに混ざりあったところで火から下ろしてあらかじめ用意しておいたクッキングペーパーへと広げ、平らになるように整える。あとは粗熱を取ったところで切り分けるだけだと、使った鍋や道具はそのままにあらためて骨喰藤四郎に相対した。<br />「もしかして――」<br />「そうだ。南泉一文字になったそうだ」<br />　律儀に待っていてくれた骨喰藤四郎がこくりと頷いた。<br />　年末に主に呼ばれたときに、彼もいたから山姥切長義が南泉一文字を待っていたことは知られている。<br />　喜ばないのか、という問いかけがじわじわと思考に染み込む。<br />　次にいつ来ることがあるのかわからなかった南泉一文字が、年始の報奨によって顕現する可能性があると聞かされたときから、意識の一部がどこかふわふわと漂ったまま日々を過ごしている。途中で、初めて迎える年末の慌ただしさに巻き込まれはしたもののそれさえもどこか現実味がないまま終わってしまった。今日は、三が日も過ぎてどこか浮かれた気分を残しながらも通常通りの勤務体制に戻り、少し暇ができたので正月のごちそう食材の余りを使いはじめたところだった。胡麻とグラニュー糖とはちみつだけで作る簡素な菓子は中途半端に残った胡麻の風味が飛ぶ前にと選んだものだ。<br />「そう……か」<br />　傍らにいなくなったと認識してからまだたった二月ほどの短い期間のうちに、ずいぶんと遠い存在になったものだと思う。<br />「そんなわけで十四日に引換所が開いたらすぐに迎えるつもりだそうだ」<br />　明示された日付にくるりと厨の中を見回すも、面倒がって端末さえ持ってこないこの場所に日付がわかるようなものは何一つ置いていない。それでも往生際悪くきょろきょろとしていたら、今日は六日だと骨喰藤四郎が告げた。<br />「一週間後だな」<br />　さくりと付け足された言葉に思いのほか動揺を覚えて、掌をぎゅうと握りしめる。<br />「早すぎないかな」<br />「そうか？　一刻でも早く会いたいかと」<br />「……そう、だね」<br />　どうにか言葉を返したあと、なんといって骨喰藤四郎を見送ったのかは覚えていない。手元に残った胡麻のクッバイタはちゃんと切り分けられていたからきっとなんとか取り繕えていたのだろうと思う。端の不格好な欠片を取り上げて口に入れるとかりっとしたくちざわりとともにふわりと香ばしい匂いが立ち上った。<br />「これも、食べさせたいな」<br />　自分に言い聞かせるように口に出してみる。<br />　嘘ではない。この厨で作る試作品は基本的にはすべていつか来るだろう南泉一文字に食べさせるためのものだ。<br />　けれどそれは、あくまで「いつか」のことだった。<br />　もっとずっと遠いことだと思っていたから無邪気に待っているなどと思えたのだ。<br />　言えるわけがなかった。<br />　この期に及んで、会いたくないなどとは。</p><p>　　　　　　　§</p><p>　今日はぼんやりしているねと声をかけられて、泡立て器を握りしめていた山姥切長義は我に返った。<br />　抱えていたボウルの中身は気づけばふわふわの生クリームを通り越して、黄色いぼそぼそとしたかたまりとどこからか染み出してきた水分とに分かれてしまっている。<br />　何が起こったのかわからなくて、慌てて声をかけてくれた燭台切光忠へと差し出すとそんなに慌てなくても大丈夫だよと返ってきた。<br />「これはね、バターだよ」<br />「バター」<br />　作っていたものはホイップクリームではと首を傾げるが、確かに色味はバターのようにも見える。どちらも牛乳から作られるものだということは知っていたが、たった今自分が生成してしまったものとどういう関連があるのかがわからない。<br />「お菓子作りしたことのあるうちの刀剣男士あるあるの失敗なんだよね」<br />　僕も以前やったなあと言いながら燭台切光忠がてきぱきと新しいボウルにざると布を取り出して重ねていくのを見守っていたら、そっとボウルを取り上げられた。<br />「もう十分かなこれは」<br />　ひとまぜしたあと、ヘラで生クリームだったものを手際よくまとめていき、用意したざるへ中身をあける。ぽたぽたと水分が落ちていくのをそのままに布の上に残った黄色い塊をくるりと包んで上からさらに重しを乗せた。<br />「しばらくこうして水分を濾します」<br />　なぜかそのまま冷蔵庫へと仕舞われていく。バターは常温だと溶けていくからだろうかと思うもやけに楽しげな様子の燭台切光忠に改めて問うのも躊躇われて口を噤む。<br />「作りたてのバター、すごくおいしいんだよ。分離したのはバターミルク。このまま飲んでもいいけどせっかくだしスコーンを焼こうか」<br />　わかっていたと言わんばかりに、調理台に置かれたままだった小麦粉を渡されて、指定された分量を量っていたら、その上にベーキングパウダーが足されたので、あわせて粛々とふるう。<br />　おやつはあればあるだけ食べられていくためか、追加とはいえスコーンもかなりの量を作るようで、すべての粉がふるいにかけ終わる頃合いには燭台切光忠の手によって他の材料が用意されていた。牛乳だけは先程の生クリームの残骸からでてきた水分と混ぜ合わされている。<br />　次はこれと差し出されたボウルにはバターと砂糖が既に入っていたが、バターは先程山姥切長義が作り出してしまったものではないようだった。<br />「さっきのバターは」<br />「できたてのバターは焼きたてのスコーンにあわせるので、作るときには使わないよ」<br />　当然でしょうといわれてもスコーン自体がなんだかわからない。そもそも今、先にオーブンに入っているシフォンケーキだって食べたことがないのだ。<br />　それでも燭台切光忠が作るお菓子がおいしくなかったことはないので、そういうものかと疑問は飲み込んでおとなしくバターと砂糖を混ぜ合わせ始めた。練って白くなったところに卵を足してさらに混ぜたあとは、先程ふるった粉を足していく。さくさくとした手触りが牛乳を加えていくことでどんどん粘りが出てどろりとした感触へと変わっていった。この状態でもすごくおいしそうに見えるのが不思議だ。一口くらいかじってみてもいいのではと考えたけれど、先程シフォンケーキの生地を混ぜていたときに生の小麦粉はおなかを壊すよと言われたばかりなことを思い出してかろうじてとどまった。<br />　どうにかまとまった生地を打ち粉をはたいた調理台の上で伸ばして、渡されたグラスで抜いていく。<br />　お菓子作りは材料を混ぜ合わせている間は何の匂いもしないけれど、オーブンで火を入れていくうちにふわりと甘さがあたりに溶け出してくるのが常なのに、今日は既に焼成されているシフォンケーキの甘い匂いがそこらじゅうに漂っていて、目の前の生地が余計においしそうに見える。<br />　そうやって山姥切長義がスコーンにかかりきりになっているあいだに、燭台切光忠が焼き上がりを告げたオーブンからシフォンケーキを取り出して、型に入れたまま逆さまに並べていく。そうしないとふんわりと膨らんだ生地が自重で潰れていってしまうのだという。型から外すのもしっかりと冷めたあとでないと、やはり縮んでしまうらしい。<br />　そこまで聞いて、やっとおかしなことに気付いた。<br />　冷めるまで時間が掛かるというけれど、既におやつの時間は目前だ。予定外にスコーンを作り始めたのはシフォンケーキの焼成を始めたあとだから、山姥切長義がやらかしたことは関係ないと思っていたのだが、これはきっと違う。<br />「――俺がバターを作るって思っていた？」<br />「そうだよ」<br />　いったでしょう、あるあるの失敗だってと燭台切光忠は笑った。</p><p>　　　　　　　§</p><p>　焼きたてのスコーンは確かにおいしかった。口の中でさくっと割れて、ほろっと溶けていく。作りたてのバターもしっとりと絡んでまた別の食感で魅了された。<br />　バターの量には限りがあったので先着の何名かだけだったけれど、燭台切光忠の言うとおりよくある失敗らしく、おやつがスコーンだと判明した瞬間に冷蔵庫から山姥切長義が作ってしまったバターが引っ張り出されたのには驚いた。<br />　今日のおやつ一番乗りの包丁藤四郎曰く、そもそもスコーンが焼かれるのはホイップクリームがうっかりバターになってしまった時だけなのだという。ありがちな失敗だけれども、全員がしでかすわけでもないから、今日のおやつがスコーンになるかどうかが賭けの対象になっていたことも教えてもらった。一部のおやつ好きたちの情熱はとどまるところを知らない。<br />　山姥切長義もおやつは好きだが、いずれくるだろう古馴染に食べさせようと思わなければここまでのめり込まなかったという自覚はあった。とはいえおやつを作れるようにならなくてもすでに部屋は贈り物を詰めた箱で埋まっている。どれもこれも間違いなくあの古馴染のために見繕ったものだ。<br />　差し出したものを突き返される心配はしていない。ただ、すんなり受け取ってもらえるとも思っていなかった。山姥切長義がかつて、南泉一文字から差し出されるものをただ受け取り続けたのは、その重さを知らなかったからだ。<br />　美味しかった水を、暖かな毛布を、書き心地のいい筆を、ただ贈りたいと願うたびに昔自分が受け取ったものを思い起こして胸の底に重りが増えていくなんて知らなかった。<br />　意図したことも意図しなかったことも、日々堆積する物の重さは同じで、贈り物の箱で埋まった隣室のように山姥切長義の中にはただ後悔が重く詰まっている。少しでも軽くしたいと深く息を吐き出してもちっとも楽にはならないけれど、区切りをつけて潜り込んでいた古馴染の部屋になる予定の隣室から抜け出した。<br />　ことあるごとに自分が積み上げてしまった贈り物と向き合うためにこちらの部屋へと入り込んでいるせいで、この城へ来てからの二月ほどで自室よりも馴染みがある気がするとはいえ、こうして我が物顔で訪れることが出来るのもあとわずかな間のことだ。<br />　きっと山姥切長義が我が物顔で出入りすることを南泉一文字はきっと許容する。それを享受できなくなったのは自分のほうだった。<br />　丁寧に襖を閉めて、自分の部屋の前を通り過ぎて回廊をてくてくと歩く。<br />　思考の行き先を見失ったときには、水を飲むに限ると決めていた。ただでさえ、ずっと待っていた古馴染が来る日が確定したと聞かされてから夜もあまり眠れていない。冷たい水は目を覚ますにもちょうどよかった。<br />　地下から汲み上げているという清水はいつ飲んでも涼やかで心地がいい。不思議なことにいつだって一口で充足してしまうから多少不便でも厨まで来ることにしていたのだが、隣の部屋に住人が増える日はもうすぐそこだ。<br />　彼が来たらこの対の屋で水を飲むのが己だけではなくなるのだからと、ずっと悩んでいた水差しを買うことにした。あらかじめ見当は付けていたので、出かけた先で改めて迷うことなく一つ選び取って贈り物用に包んで貰う。<br />　万屋から帰還して箱を片手に隣室の襖の前に立って、いつものように入り込もうとしたけれど、なぜか襖にかけた手が止まった。ついさっきにだって我が物顔で居座っていたのは自分だったはずなのに、この心許なさは我がことながら不可解だ。腕の中に抱えた箱を見下ろしても答えはそこにはない。<br />　結局、どうしても部屋に入り込めなくて、水差しの入った箱は自分の部屋に置くことにした。けれどもやがて贈るものを床には置けず、かといって長持ちに入れたり棚に入れたり出来る大きさでもなく、仕方なく文机に据える。これまでは隣の部屋にしまい込めばよかった箱は自分の部屋にあるだけで落ち着かない。<br />　そのせいでもともと寝付きが悪くなっていたのに更に眠れなくなって、ふわふわとしているうちにあっという間に時が来た。</p><p>　　　　　　　§</p><p>　南泉一文字の顕現の場に立ち会うかと主から問われて悩んだけれど、やめることにした。寝不足でぼんやりしている状態は再会を喜ぶ前にあきれられそうだと思ったのだ。<br />　当日の朝、本当にいいのかとわざわざ確認に来た鯰尾藤四郎はこちらの様子を一目見るなり、即座に布団に包もうとしてきた。<br />　迎えに行くつもりはなかったけれど、この部屋でじっと案内されてくるのを待つのもいやで必死に抵抗した結果、玄関口で待つことを許されたけれど、どうにも落ち着かなくて、気付けばいつものように自分の厨にいた。<br />　刀剣男士が顕現してすぐに食事することが可能なのはわかっている。自分が初日に燭台切光忠から芋まんじゅうをもらったように、かの古馴染になにか食べさせるなら初めては自分が作ったものがいい。おやつをあれこれと作り始めた頃は思っていたのだが、実際に彼が顕現すると聞かされてからはただぐるぐると考え込むだけでなんの用意もできていなかった。いろんなものを作ってみたし、大きな失敗らしき失敗は一度もしていないけれどどれもいまいちぴんとこない。<br />　とりあえず、今は何か材料はあるのかと冷蔵庫を開けば、先日失敗したホイップクリームをもう一度作ってみようかと思って購入しておいた生クリームが目に入る。<br />　集中力があまりない状態で行程が多い作業をしたり、オーブンを扱うのはやめた方がいいと思うだけの判断力は残っていた。今、自分がやっていいのはおそらく混ぜることだけだ。今目の前にある生クリームを混ぜて固めるだけの物がないかと、いつ鯰尾藤四郎から連絡が入るかわからないからと今日は携帯していた端末を引っ張り出してぽちぽちとレシピを探せば要望を満たした物はすぐに見つかった。もう一つの材料としてあげられていた板チョコもおやつの材料としてよく使うので常備してある。<br />　必要な道具と材料を全部揃えて机上に置いていく。頭が回らないときはとにかく行程を減らすことが大事だ。板チョコを刻む行程も当然包丁などは使わない。包装紙のうえから砕くだけで十分簡単に溶ける大きさになることは以前試して実証済みだ。<br />　生クリームの泡立ては、先日と違ってうまく泡だったところで止めることが出来た。燭台切光忠には二度目も失敗することはあまりないとは聞いてはいたものの、うまく出来るかとはまた別だと思っていたので胸をなで下ろす。一番の懸念があっという間に解消されたので、たたき割ったチョコレートを電子レンジにかけて溶かし、残りの生クリームと混ぜ合わせる。それをさらに泡立てた方の生クリームとよく混ぜ合わせればあとは小分けにして冷やすだけだ。並べておいた小さな器に均等になるように流し入れて冷蔵庫にしまい終えたところで時計を確認すれば、時間もほどよく過ぎていた。<br />　思考ではなくて材料をぐるぐるとかき混ぜる作業は鎮静効果もあったのか、どこかすっきりとしている。<br />　作業の邪魔になるからと傍らに置いていたストールや手袋などを元のように身につけて装いを整えてから、刀を携えて厨を出た。<br />　脇差と打刀が起居する二の丸は、三の丸よりは鍛刀部屋のある一の丸から近いが、それでもそれなりに距離がある。一の丸から二の丸までの案内役を買って出てくれた鯰尾藤四郎からは何の連絡も来ていないうちにと、急いで玄関口へと向かった。<br />　長い道のりを辿りながら、陽当たりのよさこそ折り紙付きではあるものの、やはり選んだ部屋の利便性は低いなと今更な反省をする。二の丸は広大すぎて、一概にどこが便利とも言いがたいのだが、食堂は城中の全員が集まってくるし、申請さえすれば自由に使うことの出来る多目的室がある一角もあるから玄関のあたりに住んでるものは少ない。山姥切長義に限らず、玄関から遠い部屋を使うものたちは概ね回廊から直接出入りするから大きな靴箱は殆ど空っぽだ。<br />　上がり框に腰掛けて膝を抱える。靴は持ってこなかったから三和土には降りない。歩いている間に一の丸を出たという報せを受け取ってから、ますます体が重くなっているような気がした。<br />　すこしだけ、と目を瞑って膝に頭を乗せる。どろどろとどこまでも沈んでいくような不思議な浮遊感があった。<br />　さくさくと誰かが近づいてくる音がする。<br />「山姥切ー、おまたせー」<br />　からっと引き戸が開いて顔を上げると、まず鯰尾藤四郎が、その後ろから南泉一文字が姿を見せた。金色のふわりとした髪に、不思議な色合いの光彩、拵えを意識したのだとわかる戦装束、その姿形は既に知っていたけど知らなかった。<br />「あ、ねこごろしく……」<br />　意識が保てたのはそこまでだった。</p><p>　　　　　　　§</p><p>　目を覚ましたら私室の布団のなかだった。ここ最近ずっと混迷していたのが嘘のように何もかもがすっきりとしている。<br />　このところずっと眠れていなかったしなと時間を確認すると、鯰尾藤四郎から一の丸を出たという連絡を貰ってからちょうど丸一日経っていた。ストールこそ衣桁にかけられているものの、身につけていた戦装束はそのままだ。<br />　どうしたものかと部屋の中をくるりと見回すと、文机のうえに水差しを包んだ箱が目に入る。とりあえず水でも飲むかと、戦装束から着替えて部屋を出ようと襖を開けるところりと何かが部屋へと倒れてきた。<br />「おや、猫殺しくん」<br />　立ったままひっくり返った古馴染を見下ろせば、なんとも言いがたそうに南泉一文字が顔を顰める。<br />「……うるせぇ。見知った顔でも、お前には会いたくなかったよ」<br />　言われた、と思う。俺もだと応えるのは簡単だけど、ぐっと飲み込んで笑ってみせる。やっとちゃんと眠れた分、いくらでも弁が立ちそうだ。手を差し伸べて転がっているのを起こす。握った掌があまりにも冷たくてどれだけ外にいたのかと思う。<br />「へぇ、それはやっぱり斬ったものの格の差かな？　わかるよ、猫と山姥ではね」<br />「そういう性格だからだ……にゃ！　……あぁ、そうか。お前も呪いを受けてたんだにゃ？」<br />　猫を斬ったと人間が認識し、南泉一文字に付加されたものはあまりにも歪に表出した。大事に大事にされていたからこその、齟齬だ。<br />　山姥切長義が受けた名は山姥切長義を歪めなかったのにふがいないことだと思うけれど、ものとはそういうものであると知っている。こうして人の形を得ていることを含めて何一つとして自身の思うままになることなどない。<br />「呪い？　悪いがそういうのとは無縁かな。なにせ、化け物も斬る刀だからね」<br />　ふふんと胸を反らせば、はっと笑われる。<br />「猫斬ったオレがこうなったみたいに、化け物斬ったお前は心が化け物になったってこと……にゃ！」<br />「語尾が猫になったまま凄まれても……可愛いだけだよ」<br />　会いたかったけど、会いたくなかった。歪められてしまった古馴染は確かに南泉一文字なのに違うものに思えてしまう。<br />　人によって自分たちが変わっていくのだとわかっていたはずなのに、自分がすんなりと馴染みすぎただけだと今更のように知る。<br />　手を伸ばして、冷え切ったままの腕を掴む。<br />　確かなものなどどこにもないけど、とりあえず目の前には古馴染がいる。だから、見たくないものはすべて目を瞑ることにした。<br />「それよりも猫殺しくん。俺は待っていたんだよ」<br />　隣室に詰め込んだ箱のどれから渡そうかなんて何一つ決めてない。あれはすべて古馴染に贈るもので、彼が受け取ったあとどうするかは山姥切長義が関与するところではない。<br />　ただ、いつかすべての箱が空いたら、自分の部屋に置いた水差しを渡そうと思った。</p><p>　きっと、その頃には水も口に合うだろう。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2021-02-28T22:29:00+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=51">
		<title>#ふぁぼされた数だけ存在していない自分の作品から一文や台詞を抜き出して紹介する</title>
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		<description>ぽたりぽたりと岩を穿つ水がとうとう穴を開けたのだと誰もが思った。それはつまり破壊と同義なのではとは誰も言い出すことがなかった。（燭鶴）緻密に計算ができればできるほど、驚きなど何もなく全てが定められたか...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>ぽたりぽたりと岩を穿つ水がとうとう穴を開けたのだと誰もが思った。それはつまり破壊と同義なのではとは誰も言い出すことがなかった。（燭鶴）</p><p>緻密に計算ができればできるほど、驚きなど何もなく全てが定められたかのように収まっていくのだと褪せた声が告げた。（燭鶴）</p><p>手を伸ばしたつもりだった。事実、刀は己のであり、己の体でもある。だから、切り裂いてしまったのはただの事故だった。（燭鶴）</p><p>どこかから飛んできた果物を平然と受け止める男に呆れしか覚えなかった。眼帯をしているがゆえに生じる死角からは飛んでこないからと頑是ないこどものいたずらを許容するような声で告げられて虫酸が走る。どちらの意図もわかってしまう自分がいつ口を開いてしまうのかも恐ろしかった。（燭鶴）</p><p>踊らされたと気づくときにはおそすぎた。真白の鳥がいつだって「口実」を探していたことなんて誰よりも知っていたはずだったのにまんまと乗せられてしまった。（燭鶴）</p><p>今日も床に鶴丸国永が落ちているという報せが大倶利伽羅のもとに齎された。<br />いらない。（くりつる）</p><p>横になって布団をかぶって目を閉じるだけだと先達はいった。なるほど簡単だなと思い込んだのはきっと自分がうまく出来ないのだとわかっていたからだろうと一向に訪れない眠気に溜息を付いて起き上がることにした。観察対象はおあつらえ向きに隣室にいる。（くりつる）</p><p>誰も訪れない暗がりについ身を潜めるから、光が余計に眩しいのだと知っていた。けれどもすでに身に染み付いてしまった習慣はどうやっても剥がせないのだとも理解していた。（堀川国広）</p><p>言葉というのは存外に不自由だ。形にしてしまえばそれしかないように思えてしまう。詳らかな言祝ぎは呪言と相違ないようにしか聞こえず、結局は南泉一文字も山姥切長義のために言葉をつむぐしかなくなってしまった。（にゃんちょぎ）</p><p>「人形は愛してやらねばならぬ。だが、人形に恋うてはならぬ」幼い頃から繰り返し聞かされた人形師としての心得を忘れたことは片時もなかった。だから、あのときの自分には殺意しかなかったのだ。永遠に咲き続けるはずの彼を手折ったのは間違いなく自分だった。（にゃんちょぎ）（プランツパロ）</p><p>基本的に彼の住居に訪れるのは自分の都合であって、呼び出される心当たりなど特にはなかった。けれど土下座するように差し出された紙束の名称がゲラだということを思い出すと同時に、何をされたのかわかってしまった自分の賢さを恨んで、相手の責任を追求し忘れたのは失態だった。（にゃんちょぎ）パロ</p><p>記憶というのはいつだって自分が都合のいいように改竄され、磨かれていくのだと、夢の通い路のようなこの本丸で旧知のものに会うたびに思い知っていたはずだった。そして、忘れてしまいたいことほど、そのまま残されて棘のように己を苛むのだ。（いちみか）</p><p>君にともだちをやろうと鶴さんが満面の笑みでいった。<br />ともだちはもらうものではないのではと、あの日の僕は思ったし、実のところ今も思っている。埃をかぶらないように大事に大事にしてはいるけど、くまのぬいぐるみはどれほど鶴さんが悲しそうにしても決して僕のともだちたり得なかった。（燭鶴）</p><p>頭が固くて古臭い価値観に縛られているのは己の方なのではと、たまに感嘆するのだ。決して相手にはいってやらないけれども。絶対にいってはやらないけれど。（FGO/沖ノブ）</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2020-06-11T23:30:00+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=50">
		<title>ちいさいつるまるさんとかぶりもの</title>
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		<description>「つるさーん」　声が大きくなりすぎないように気をつけながら、燭台切光忠はもはやいくつめだかわからない扉を開けて部屋の中を覗き込んだ。龍脈穴守の屋敷は人が寄ることも多いため、住む人の規模の割にかなり大き...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>「つるさーん」<br />　声が大きくなりすぎないように気をつけながら、燭台切光忠はもはやいくつめだかわからない扉を開けて部屋の中を覗き込んだ。龍脈穴守の屋敷は人が寄ることも多いため、住む人の規模の割にかなり大きい。大倶利伽羅の屋敷はその中でも王都内にあるせいでひときわ立派な作りだ。居住に使っている部分はごく僅かなのだが、そのせいでこどもが部屋から抜け出してどこかへと姿をくらませている今みたいなときには大変なことになる。<br />　名前を呼びながら、家の中をくまなく探して歩くのは、こどもには負担なのだと知っていた。けれども、放置もできない。やっとあれこれが落ち着いて、この屋敷に移ってきたばかりなのだ。禁じられた場所に不用意に立ち入ってしまうようなこどもではないけれど、不慮の事故というのはいつでも起きる。<br />　せめて朝ごはんは食べてほしい。<br />「つーるさーん」<br />　うろうろと歩いているうちに、気付けばこどもの部屋まで戻ってきてしまっていた。これだけ見て回っても出てこないのだから、もう一度部屋の確認もしておくかと、そろりとドアを引いた。<br />　閉まったままのカーテンの隙間から光がこぼれて、暗い部屋の中をほの明るく照らしている。<br />「おじゃましまーす」<br />　こどものための部屋だが、まだいろんなものが揃っていなくてどこか寒々しい。寝台はこどもが抜け出たままの姿で上掛けがめくれている。とりあえずカーテンを開けて、ついでに換気のために窓も開けた。リネン類はまだ取り替えなくてもいいかと、ベッドメイクだけはしておこうかと手をかけておやと首を傾げた。<br />　こどもが自分から選んだガーゼケットが一枚見当たらなかった。<br />　床に落ちているということもなく、こどもとともに消えている。<br />　抱えて一緒に移動していたのなら痕跡くらいは残ってそうなものなのだけれどもとくるりと部屋の中を見回してみれば、作り付けの棚の扉から件のガーゼケットがはみでていた。<br />　朝一、部屋を覗いて寝台が空っぽだと思ってしまったのは早合点だったかもしれない。<br />「つるさん？　勝手に入ってごめんね。出てるね」<br />　触ってしまったけれど、ぴしっとさせてしまっても気になるかもしれないと、持ち上げていた掛布をふわりと戻す。空気は十分入れ替わっただろうと、窓だけ閉めて部屋をあとにした。</p><p>§</p><p>　朝食を先に作っておくかと厨房へと赴けば、すでに先に大倶利伽羅が火に向かっていた。<br />　二人してうろつきまわってもこどもが怯えるだけだろうと、慌てる光忠に揺さぶられても布団から出てこなかった大倶利伽羅はかわりの仕事をしていてくれたらしい。<br />「いたのか？」<br />「うん、開けてみてないけど部屋のクローゼットにいたみたい」<br />　鍋の中身を確認して、配膳の支度のために食卓へと向かう。くたくたになるまで牛乳で煮込まれたパン粥は、まだ食べられるものが少ないこどもの数少ない好物のひとつだった。慣れない匙でたどたどしくも一生懸命に食べるのをいつもつい見守ってしまって、手元のものは冷めてしまうが仕方がないと思う。<br />　支度をすべて終えて、あとはこどもが起きてくるのを待つだけかと息をついたところで、ぺたぺたと歩く足音が聞こえてきた。<br />「みつ……」<br />　そうっと食堂の入り口から白い布をかぶったこどもが姿を見せる。<br />「おはよう、つるさん」<br />　できる限り優しく聞こえるようにとやわらかに声をかけると、こどもはぴゃっと布を深くかぶった。よく見たら、先程見なかったガーゼケットである。床についてずるずると引きずってきたのなら洗わなければならないなと考えるも、こどもから剥がすのも大変そうだとも思う。<br />「……えーと」<br />「起きたのか、つる。飯にするぞ」<br />　台所から大倶利伽羅が出てきて、光忠の脇を通るとこどもが逃げる間もなくすっと抱き上げた。<br />「伽羅ちゃん!?」<br />　慌てる大人とこどもを意に関せず、大倶利伽羅はこどもを食卓のちいさな椅子に乗せて再び台所へと戻っていく。光忠が動けないでいる間に、もごもごと布の塊が動いたあと、こどもの白い頭が飛び出してきたが身体はガーゼケットにすっぽりと包まったままだ。<br />「大丈夫？」<br />　きょとんと光忠を見上げたこどもはすこしたったあとにこくりと頷く。<br />「おなか、すいた」<br />「そっか。今日は伽羅ちゃんがパン粥作ってくれたよ。つるさん、好きだよね」<br />「みつ、ちがう？」<br />　なぜかしょんぼりとしたこどもに、あれ、と内心首を傾げた。<br />「お前が隠れてたから光忠は心配だったんだ」<br />　ことりと湯気の立つ器が三人それぞれの前に置かれていく。<br />　不安げにきょろきょろとあたりを見回したこどもは、またもとのようにガーゼケットを頭からかぶろうとして大倶利伽羅に剥がされた。古い付き合いのせいか、大倶利伽羅のこどもへの態度は常と変わらない。こどもを怯えさせないように一挙手一投足に気を使っている光忠とは大違いだ。<br />「ここは安全だと言っただろう。あと食事中はかぶるな」<br />「でも」<br />　唇を噛み締めて椅子の上で丸まってしまいそうなこどもに、光忠は大倶利伽羅が剥ぎ取ったガーゼケットを柔らかくかぶせた。<br />「みつ……」<br />「かぶっててもいいよ。でも後でガーゼケットは洗おうね。床をお掃除してしまったから」<br />「……うん」<br />　ほっとしたように頷くこどもには大倶利伽羅もそれ以上は何も言わずに椅子に座る。三人ともが席についたところで、それぞれ食前の祈りを捧げて食べ始めた。<br />　食事中は示し合わせているわけではないが、誰も喋らないのでこどもの匙が食器にかつかつとあたる音がするだけで静かなものだ。<br />「ごちそ、さま」<br />　食べ終えて手を合わせたこどもがまだ食べている大人二人を横目にするりと椅子を滑り降りる。<br />「つる？」<br />「あらう、する」<br />　まだかぶったままのガーゼケットをぎゅっと握りしめるこどもに、大人二人は食卓の上で苦笑して目を合わせた。<br />「まだいい」<br />　手を伸ばして大倶利伽羅が再びこどもを椅子に乗せ、光忠は台所へ食後に出すつもりで用意しておいた果物を取りに行く。<br />「りんご！」<br />　目を輝かせるこどもに、食べてからねといえば素直にこくりと頷いた。</p><p>§</p><p>　それからもたびたびこどもがガーゼケットをかぶってうろちょろしたため、引きずらない長さのタオルにフードを付けてやるのは、また別の話。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2020-02-23T02:54:00+09:00</dc:date>
	</item>
	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=49">
		<title>きょうもあしたもあさっても</title>
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		<description>「おはよう、猫殺しくん」「ん」　目を覚ますと、いつも見慣れた古馴染みの不思議な色合いの虹彩が目に入る。　二振りで一つの暖かな布団で眠るようになってから、先に目を覚ますのは山姥切長義ではなく南泉一文字に...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>「おはよう、猫殺しくん」<br />「ん」<br />　目を覚ますと、いつも見慣れた古馴染みの不思議な色合いの虹彩が目に入る。<br />　二振りで一つの暖かな布団で眠るようになってから、先に目を覚ますのは山姥切長義ではなく南泉一文字になった。最初は眠れていないのかと心配もしたのだが、そういうわけではなくてただあまり長くは眠らずに済むような体質ではないかと本刀がいう。あんなに寝起きが悪かったのにとは思うものの、ぐずぐずと眠れていなかった頃とは違って夜も深く眠っているようなのでさして心配しなくていいようだった。<br />　山姥切長義自身は睡眠に関して困ったことが殆どなかったし、眠れない夜はそれこそ南泉一文字がいれば安眠を確約されていたようなものだったから、その安眠剤自身が不眠気味だったことに気付いていなかったのは片手落ちだったと反省した。刀剣男士の体は多少の不眠で使えなくなるようなものではないのだが、休みを取ることもなくずっと起きたままではやはり変調は来る。<br />　一緒に眠ろうと提案したのは、あの時にぞっとするような冷たさになっていた南泉一文字が怖かったからだが、お互いの安眠が確保されるというのは嬉しい副次効果だったと思う。それに、一振りで眠って一振りで起きることを今まで特には意識したことがなかったのだが、おやすみとおはようを交わす相手がすぐ傍にいるのは存外に心地がよかった。<br />　最近はもう夜に眠るとき以外は、部屋と部屋を隔てている襖も開けっ放しで二間の部屋のごとき暮らしである。互いに私物の少なさを揶揄もしたが、おかげで部屋を繋げたままでも特に支障がない。ただいまとおかえりのある生活もいいものだ。<br />「今日は？」<br />　暖かな布団には目を覚ませばきっぱりと未練がなくなるので、転がったままの古馴染みを置き去りにして抜け出すとさっさと服を着替える。特に出陣の予定はないのだが、だいぶ暖かくなってきたとはいえまだまだ寒いので戦装束を身に着けた。夏のさなかには辛かったが今はむしろストールで覆われるのはありがたい。<br />「晴れるらしいから布団を干したいな」<br />「それならはしご借りてこねえとなぁ」<br />　山姥切長義が抜け出してぽっかりあいた分寒いらしく、観念して南泉一文字も起き出した。のそのそと着替えるのは戦装束でも内番着でもなくもう少し季節に沿ったものだ。<br />　何度か回廊で行き倒れて人の体は冷えすぎても動かなくなるのだと自分で気付いて、衣料部に融通してもらったという。<br />　万屋で即時に手に入れることができるのは戦にまつわるものだけで、他は目録でえらんで数日に一回届く定期便だけであるため、突発的に必要になるものなどはある程度在庫を用意してあることは知っていたが、衣服もまたその対象であるのだとは寡聞にして知らなかった。大浴場の浴衣などはその衣料部の管轄なのだと言われてなるほどと首を傾げた。<br />　厨に出入りするものたちと同じで、純然たる趣味で運営されているらしい。<br />　一部、綿花から育てているのだと聞いたことは記憶から消しておきたい。刀剣男士は基本的にはずっと人とともにあったものたちだから、人の身を得た今、やってみたかったことをあれこれ試しているのだとわかってはいてもなかなか飲みきれないものがある。<br />　夏の暑さに参っていた頃に南泉一文字がどこからか調達してきて、世話になった筵も誰かが作ったものなのだろうなと薄々は察してもいるが今のところは目を背けることにしていた。うかつになにかに興味を持ったら自分も同じ穴の狢になることは目に見えているからだ。暫くは日々の暮らしで手一杯だということにしたい。<br />　朝のうちに南泉一文字が借りてきてくれたはしごで屋根の上に登り、二振り分の布団を干して、掛布や敷布などを纏めて洗い場に持っていって機械に任せる。乾燥まで全自動でやってくれるというのは画期的だったのだと機械全般をこよなく愛している陸奥守吉行が力説していたのを聞いたことがあるが、つまるところ初代のころはまず電源を取ることが難しくて、今のご時世に手で洗っていたのだと聞いて目眩がした。初代の主の話は所々で聞くことがあるのだが、刀剣男士たちよりも誰よりも初代の主がこの暮らしを満喫していたことには間違いがない。楽しく楽しく過ごして、そして、生涯を閉じた。<br />　次にこの城を訪れて主となったのは、まったく同じ顔をしたものだったという。<br />　この城において、取替がきくのは刀剣男士だけではないのだ。</p><p>　　　　　§</p><p>　何もかもを人の真似事をしているわけではないが、それでも大勢で暮らしていればそれなりに役割分担も秩序も生まれる。出陣がない日のほうが忙しいのではと息をつきながら自室へと戻ってきたら、部屋が大きな箱で埋まっていた。外側に書かれた文字で、中身の推察は簡単についたが問題はまったく覚えがないことだ。<br />　思わず、一歩部屋を出て現在位置を確認したが、間違いなく自室だったし、隣室への襖も開かれたままだ。<br />　鍵がかかるような作りの扉でもないから留守をしている間に誰かがこうして物を置いて行くことは簡単ではあるが、この城において新しいものを手に入れるというのはいささか手続きが面倒だし時間がかかる。初代の主の頃ほど鎖国状態ではないのだが、当初のないものは作ってしまおうという開拓者精神とも言えるものと、それぞれの凝り性が合わさった結果が今であって、このような大きな箱が気軽に運ばれてくるようなことは滅多に無いのだ。おそらく部屋に角材を積まれていたほうが動揺はしなかっただろう。<br />　とりあえず、自身に心当たりがなければ原因はこの部屋でともに起居しているもう一振り以外にはないだろうと改めて中へと足を踏み入れる。<br />「猫殺しくん？」<br />　古馴染みは部屋の奥で、取り込んだ布団に埋もれるようにして眠っていた。取り込んでから多少時間が経っているから既に暖かさのかけらも残っていないが、寒さによる気絶ではなくただ眠っているだけのようなので、無理に起こさずに傍らにすとんと座り込む。<br />　既に日は落ちていて、段々と空気は冷え込んできている。今からこの大きな箱を開けていくのは重労働だ。箱の外書きを信用するならば、たしかに今日からでも使えるなら使ってみたいが、そのためにはおそらく睡眠時間を犠牲にしなければならず、本末転倒でしかない。<br />　とりあえず、何を思って二振りが並んで転がっても十分に余裕があるような大きさの寝台一式をこの古馴染みが導入しようとしたのかは後で問うてみようと考えながら、すやすやと寝息を立てる彼の隣にどうにか寝転ぶ。たたまれたままの狭い布団の上で寄り添えば冷え切ってない体は温かくてあっという間に眠気が訪れた。<br />　狭かろうが広かろうが、山姥切長義は隣に南泉一文字がいればそれだけで十分なのだ。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2019-12-08T02:15:00+09:00</dc:date>
	</item>
	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=46">
		<title>眠れない夜が明けた朝の</title>
		<link>https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=46</link>
		<description>　一睡もできずとも朝は来る。　日の出からすこし経った頃合いに、目覚めのいい古馴染みが覚醒し、隣に転がっている部屋の主を認めてバツの悪い顔をしたのを確認して、南泉一文字は隠すことなく大きく欠伸をした。つ...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>　一睡もできずとも朝は来る。<br />　日の出からすこし経った頃合いに、目覚めのいい古馴染みが覚醒し、隣に転がっている部屋の主を認めてバツの悪い顔をしたのを確認して、南泉一文字は隠すことなく大きく欠伸をした。ついでにすっきりした顔をしている山姥切長義を寝台から蹴り落とす。<br />「風呂は？」<br />「寝かせろ、にゃ」<br />　寝起きからちゃんと頭の回る古馴染みは蹴落とされたことに言及することもなく、いくつかの最低限の確認だけをしてきたので、よろしくと声を出すのも面倒で手を振った。そのせいで剥いだ形になった掛布をもとに戻すのも面倒で、くるりとまるくなれば密やかな笑い声と肌触りのいい寝具が降ってくる。<br />「おやすみ」<br />　静かに襖が閉じられる音を聞きながら目を閉じれば、意識はすぐに闇に落ちた。<br />　夢も見ない眠りは、長いようで短かった。<br />　時間をおいて支度を整えてきた古馴染みは、戻ってくるとすぐに遠慮なく南泉一文字を叩き起こしてきた。食って掛かるほどの気力もなく、差し出された蒸しタオルをおとなしく受け取って顔を埋める。暖かな蒸気は疲れ切っていた目に心地よく、そのまま着たままだった戦装束を脱いで全身も拭いて、渡されるままに部屋着を着込む。ここ数日、着たきり雀だったので洗いたての布の肌触りがありがたい。<br />　仮想現実空間とはいえ、本来人の体を持たぬ付喪神たちに人の体を疑似体験させるために、莫大なリソースを割いて日常生活を暮らしていく上でどうしても向き合うことになる汚れは付加されることになっているのだ。人の体のみならず、床には塵だって積もる。普段は毎日着替えて掃除をするから気にならないのだが、たまにこうして人による謎の心遣いの存在を思い知る。<br />　どうにか支度を整え終えたが、正直欠伸を噛み殺すのも面倒になってきて布団に戻りたい気持ちでいっぱいだ。時計を確認すれば多少は寝れたようだったが、数日分としてはまだまだ足りない。全員参加が義務付けられている朝食を取るために、食堂まで赴くのも面倒だ。同じ二の丸にあるとはいえ、自室が端のはしにありすぎて歩いているうちにどこかで寝落ちる気がする。<br />　山姥切長義を一度部屋から追い出してもう一度眠るか検討していたら、パーカーを着せられて、無言で背負われたのでおとなしく力を抜いた。俵担ぎされないだけましだ。あれは腹を圧迫される。<br />　適度に揺れる背中のうえがまた眠気を誘うので目を閉じて欠伸をこぼしているうちに食堂に着いたのが、襖が開けられる音でわかった。<br />「どうした、山姥切長義。南泉と喧嘩でもしたのか？」<br />　生真面目な声に目を開ければ、ちょうどへし切長谷部も来たところだったらしく、膳を手に立っていた。<br />「うん？　おはよう長谷部くん。喧嘩をした覚えは特にはないかな」<br />　全員集合する関係で、配膳には時間と手間がかかりすぎるためそれぞれの膳はそれぞれが厨にて用意してくる決まりだ。膳には食事が冷めないような仕掛けを施してあるので、刀剣男士が食堂に赴いてくる時間はかなりばらつきがある。<br />　へし切長谷部はどちらかといえば早いほうで、食堂内はまだ閑散としていて、食事が始まるまではまだまだ掛かりそうだった。<br />　そういえば厨には寄ってこなかったから、気の回る古馴染みは二振り分の食事はすでに席と共に確保してくれているのだろう。それだけお膳立てをしてくれているのなら、やはり自分は二度寝ができたのではと思うも、眠気と疲弊であまり生きていない己の支度時間に余裕を見たのと、普段は連れ立った行動をあまりしない自分たちがあまり目立たない時間に動こうとした結果だということはわかっていたので口には出さずに、欠伸をこぼす。<br />「おはよう、長義の。南泉と喧嘩か？」<br />「してないよ、愛染くん……おはよう」<br />　話しかけてきた愛染国俊が明石国行に窘められるのを横目に、思ったとおり出入り口近くに用意されていた膳の前に降ろされた。体に力が入らなくて液体のように溶けていたかったが、下手に横になると当然のように隣に座した古馴染みに突かれて起こされるので、諦める。<br />「ねむい」<br />「はいはい」<br />　せめてもの抵抗に立てた膝の間に顔を埋めていたら、パーカーのフードが頭がふわりと被せられた。かわりに、手首を握られたが、それぐらいならまだ我慢できる。<br />　人の体があるというのは、不便なことと便利なことが表裏一体だとこういうときに強く思う。体があるからこそ不安に陥るのに、自分のものではない体温でごまかせることだってあるのだ。<br />「山姥切おはよーう！　南泉と喧嘩しました？」<br />「鯰尾まで……してないよ。おはよう」<br />「ですよねー。いやあ、おんぶしてたって聞いたからつい」<br />　なんだそれはと、まともに働いていない思考回路で考えるも、話に加わるために頭を上げるところまでは辿り着かない。<br />「喧嘩はともかく、俺のせいで猫殺しくんは眠れなかったからね。面倒ぐらいは見るさ」<br />　勝手に南泉一文字の部屋に入り込んでいたところから、徹頭徹尾山姥切長義のせいであることには異論はない。<br />「――あれ？　南泉、今朝もどってきたんじゃないんです？」<br />「夜中だったよ」<br />　古馴染みたちの会話をぼんやりきいているうちに、いつの間にか全員が揃っていたのか、いただきますの唱和が響いたので、膝をおろして、手を合わせる。南泉一文字の膳には大きめの器に入った味噌汁だけが用意されていた。徹夜明けの疲れ切った体に出汁のやわらかい暖かさがじんわりと染み渡って少しだけ目が覚める。具が殆ど入ってなくて、箸を使う必要もないのがありがたい。<br />「ごちそうさま、にゃ」<br />　片付けは用意とおなじく寝不足の元凶がするだろうと、空になった椀を膳の上に戻して席を立つ。朝食の席は集まることにのみ意義があって、特に伝達などがあるわけではないから、食べ終わると同時に外へと出ても問題ない。<br />「あっ、南泉どこ行くんですか？」<br />　襖に手をかけたところで、ズボンの裾が引っ張られて、鯰尾藤四郎も近くで食事をとっていたことを知る。どことなく焦った様子に珍しいなとは思うけれど、どうしても今は眠さが先に立つ。<br />「そいつが入れないとこで寝てくる……にゃ」<br />　空っぽだった胃に汁物だけとはいえあたたかなものが入って、わずかばかり体力が回復したけれど、同時にくちたおかげでさらに眠い。<br />「鯰尾、放す……にゃ」<br />　足を動かそうにも動かせなくて、何度か名を呼んでようやく渋々手を離した鯰尾藤四郎の様子は気にならないでもなかったが、思考能力が低下している今、深く考えるのは後回しだ。<br />「猫殺しくん、おやすみ」<br />「にゃあ」<br />　どことなく機嫌の悪い山姥切長義に内心首を傾げながらも、後ろ手に襖を閉める。<br />　目指す場所は最初から決まっていた。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2019-10-10T23:52:00+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=47">
		<title>鯰尾藤四郎が踏んだ地雷の</title>
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		<description>『南泉一文字が山姥切長義に背負われて来たけど、喧嘩じゃねえよな？』　鯰尾藤四郎がその報せを愛染国俊から受け取ったのは、朝の支度を終え、もうすこしゆっくりしてから食堂に向かおうかと思っていたときだった。...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>『南泉一文字が山姥切長義に背負われて来たけど、喧嘩じゃねえよな？』</p><p>　鯰尾藤四郎がその報せを愛染国俊から受け取ったのは、朝の支度を終え、もうすこしゆっくりしてから食堂に向かおうかと思っていたときだった。<br />　早朝から着信音を響かせた端末を珍しいなと手にとって、目に入ってきた文章を咀嚼するのには時間がかかった。<br />「はあっ？」<br />　まず、あの二振りの喧嘩とかそんなめちゃくちゃめんどくさいやつでは？　物吉貞宗と後藤藤四郎にも連絡して逃げなきゃと思ってから、なにもおんぶしていたからと言って必ずしも喧嘩に結びつくわけではないのだったと、この城で過ごしているうちにいつの間にか定着してしまった常識に膝をついた。喧嘩してしまって顔を合わせたくないときには、逆にひっついていれば顔を見なくて済むなどという超理論は微笑ましいのだが、そんなかわいげはあの古馴染みたちにはない。<br />「いや、それにしても山姥切が南泉を背負う……？」<br />　引き摺るではなくて？　と首を傾げていても埒が明かないのでとりあえず部屋を出ることにした。わざわざ利便性の悪いところに陣取っているかの古馴染みたちとは違って、脇差最古参の鯰尾藤四郎の起居する部屋は食堂として使われている大広間からはほど近いところに位置している。厨で適当に皿を掴んで朝食の形を整え、勢い込んで食堂の襖を開けたら、件の二振りはすぐ目の前に座っていた。<br />「山姥切おはよーう！　南泉と喧嘩しました？」<br />　抱えてきた膳を空いていた山姥切長義の右隣に据えて座る。<br />「鯰尾まで……してないよ。おはよう」<br />　不思議そうな山姥切長義は端正な正座だったが、その左にいる南泉一文字は膝を抱えてその上に頭を乗せていた。見るからに憔悴していて、ああいつもの徹夜明けか、と気付く。つまり、珍しい事態に思わず駆けつけたが、これはきっと部屋の前とかで倒れていたのを山姥切長義が回収して持ってきただけなのだろう。<br />「ですよねー。いやあ、おんぶしてたって聞いたからつい」<br />　嘆息しながら見回した広い部屋の人影は未だにまばらで、とりあえず目があった愛染国俊には隣の山姥切長義には気付かれぬよう感謝の意を込めてそっと手を振った。しかし少ないとはいえすでに食堂へと来ているものたちがこちらに注目している雰囲気はわかりやすく、おそらく先程自分が報せを受け取ったようにあちこちに情報が飛んでいるのは間違いない。明確に時間が決まっているのではなく、全員が揃い次第始まる朝食は、今日はきっと早く開始されるだろうなと背後でせわしなく開け閉めされる襖に肩を竦めた。<br />「もしかして、猫殺しくんを背負ってきたから喧嘩かって聞かれたのかな？」<br />　今更得心したように首を傾げる古馴染みに、そういえばおんぶが喧嘩の印であると刷り込んだ元凶たちは最近は派手にやらかしてはいなかったかと思い当たる。<br />　この手の共通認識はわざわざ事例を挙げて教えるものでもないし、知らなくても無理はない。既知であればおんぶだけは避けただろう。そもそも、南泉一文字を雑に扱っても大丈夫なときはとことん雑に扱うはずの山姥切長義が、今日に限って背負ってきたほうが珍しい。とはいえ、おんぶが喧嘩の印だということを知っていて本当に喧嘩をしていたのなら、あえて背負ってくる程度のことはするはずだが、その場合は周知も兼ねてもっと刀数の多い時間にやらかす。<br />　この古馴染みたちは喧嘩を始めるとお互いの神経を削り取るためには手段を選ばないので、ひたすら周りが振り回される羽目に陥るのだ。<br />「そうです。いろいろありまして」<br />「喧嘩するならとりあえずは他には知られないようにやるかな」<br />「そうしてくれると嬉しいですね」<br />　所蔵元で振り回された実感を込めた相槌に、さすがに思うところがあるのか山姥切長義はそっと浮かべている笑みを深めた。<br />「喧嘩はともかく、俺のせいで猫殺しくんは眠れなかったからね。面倒ぐらいは見るさ」<br />　言葉の意味を咀嚼しきると同時にしまった、と思う。先程からなめらかに続いていた襖の開け閉めされる音と足音が一瞬止まった。ついでに室内をそろりともう一度確認したら、いつの間にかほぼ全員が揃っており、視界の端に入った物吉貞宗がにこにこと笑っているのに気付いてしまって、飛び出しかけた悲鳴を喉の奥に呑みこんだ。<br />「――あれ？　南泉、今朝もどってきたんじゃないんです？」<br />　鯰尾藤四郎にはよくわからないことで場外からの援軍に呼び出されている南泉一文字は予定では一昨日に戻ってくるはずだったのだが、期間が伸びたということだけ聞いていた。そういうときには大抵、徹夜明けで早朝に帰城する。だから、最初は隣の部屋の山姥切長義に目覚ましでも頼んだのではないかと思っていたのだ。なんだかんだいいつつも基本的には互いの頼み事を無下にすることはないのだと知っている。頼まれた目覚まし役を曲解して睡眠時間を優先して運ぶぐらいはどちらがどう頼まれてもするだろう。<br />「夜中だったよ。時間は確認しなかったけど結構遅かったな」<br />「待ってたの？」<br />「まさか」<br />　そうだろうな、と思う。山姥切長義は早寝早起きなほうで、睡眠の質も大事にしている。以前、軽い気持ちで聞いた初任給の使いみちは豪快にもほどがあった。<br />　しかし、だとしたら山姥切長義はどうやって南泉一文字の帰城を把握したというのだろう。確かに二振りは隣同士の部屋で起居しているけれども、城のどの部屋も紙と木で出来ている見た目とは裏腹に防音性能は高いし、そもそも基本的には部屋の主の許可なしには他の部屋には入ることができない。<br />　けれど、話を聞く限りでは一度眠ったらぐっすり朝までの山姥切長義は何らかの形で南泉一文字に起こされたことになり、どういう経緯かそのまま夜を明かしたのだろう。<br />「そう、でしたか」<br />　ようやく――ようやくこれは軽い気持ちでつつくべきではなかったのではと気付いたものの、遅きに失した。山姥切長義が平然としている以上、深読みできるようなことはまったくなかったと言い切れるのは、自分が古く長い付き合いがあるからで、周りで耳をそばだてているものたちにとっては違うはずだ。しかし、聞かれてもいないのに弁解を始めるのもなにか違う気がするし、話の切り出し方によっては誤解に誤解を重ねることになりかねない雰囲気もある。<br />　何を言うべきなのか呆然としているうちに朝食は始まり、汁物椀しか用意していなかった南泉一文字が席を立ったのは早かった。<br />「あっ、南泉どこ行くんですか？」<br />　ただひたすらに眠そうな古馴染みの裾を掴んで引き止める罪悪感は皆無だ。気付いてないのだろうけれど、常にないほどに静寂と緊張感に満ちた朝食の場のことと、そこに残されるものたちのことを考えてほしかった。<br />「そいつが入れないとこで寝てくる……にゃ」<br />　けれど、本当の問題は南泉一文字が普段なら口をつぐんでおいていただろうことをぼんやりとこぼすほど眠くて判断力が落ちているのだと、鯰尾藤四郎が把握できてなかったことなのかもしれない。<br />「鯰尾、放す……にゃ」<br />　隣から漂ってくる殺気に、本当に置いていかないでほしいと心底願いながらも、渋々と手を放す。<br />「猫殺しくん、おやすみ」<br />　殊更に柔らかな声が、鯰尾藤四郎にとって死を告げる鐘の音に似ていた。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2019-10-10T23:52:00+09:00</dc:date>
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	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=48">
		<title>外野が無責任に憶測することの</title>
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		<description>「……ありがとうございますあるじ……」　常にない緊張感に満ち満ちた朝食も終わり、鯰尾藤四郎、物吉貞宗、後藤藤四郎は揃って主の執務室へと呼ばれていた。部屋には他に近侍の明石国行といつものおまけの一期一振...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>「……ありがとうございますあるじ……」<br />　常にない緊張感に満ち満ちた朝食も終わり、鯰尾藤四郎、物吉貞宗、後藤藤四郎は揃って主の執務室へと呼ばれていた。部屋には他に近侍の明石国行といつものおまけの一期一振もいる。<br />　それなりに広い室内に誂えられた応接セットのソファを一つ占拠してぐったりとしているのは鯰尾藤四郎だけで、ほかは思い思いの場所に座っている。<br />「南泉が寝てる部屋以外に山姥切長義が寄り付かない部屋ってここしか思いつかなくて……ほとぼり冷めないと思うけどちょっとでも英気養っていって」<br />　どこか楽しそうにしている主は両手で包むように持った湯呑をゆっくりと傾けた。執務室の襖は主の意向でいつでも開かれているけれど、だからといって野次馬が無遠慮にたかることもない。そういった分別を全員が最初から身につけているわけではなく、それぞれ何かしらの折に主に諭されて学んでいくだけだ。<br />「あれ？　事情きかれるんじゃないんですか、俺たち」<br />　明らかに、南泉一文字がどこにいるのかを理解している発言に、鯰尾藤四郎が首を傾げる。怒れる山姥切長義から匿うだけなら物吉貞宗と後藤藤四郎まで呼ぶ必要はない。<br />「ないない。呼んだのは、物吉が鯰尾に何か言いたそうだったからだし、それなら後藤もいたほうがいいかなってだけ。俺はたぶん、この件に関してはうちのほかの誰より詳しいので」<br />　どういうことなのかと三振りで首を傾げていたら、応接セットではなく文机にいた明石国行が口を挟んだ。<br />「普段から南泉の部屋にいりびたっとります」<br />「え、どうやって」<br />「普通に、訪ねてらっしゃいますよ」<br />　弟の疑問に今度は一期一振が答えた。南泉一文字の部屋を訪っては猫と遊べた楽しい、とうきうきして過ごす主の行動はわりと筒抜けである。<br />「ふつう」<br />「遠くて通うという発想がそもそもなかったぜ」<br />「後藤と違ってボクと鯰尾は、建屋はおんなじなんですけどねえ」<br />　顔を合わせるときには二の丸の端のはしに居を構える二振りのところへ赴くよりも、一の丸に住まう後藤藤四郎も含めて五振りのそれぞれの部屋から等距離の辺りに作った尾張部屋のほうに呼び出すことのほうが多い。個々の部屋よりも、申請して作れる茶話室のほうが広くて簡単な給湯施設もついていて居心地がよいからだ。<br />「犬騒動のときに通ってた習慣が抜けなくてつい……誰も来ないし日当たりいいし居心地よくて。猫《はんぶん》もいるし。はんぶん、部屋にいるだけならまっぷたつじゃないし」<br />　指折り数える主にそれぞれが心当たりを記憶から引っ張り出した。<br />「ああ……そういえばあの頃、南泉が来るやつ来るやつ皆が楽しそうにはんぶんにかまっていくから、煮干しの消費が激しくて困るって言ってました」<br />「そうそう。それ聞いた山姥切が嬉々として煮干しの定期購入始めちゃって、南泉が頭抱えてた」<br />　南泉一文字のちいさな猫を羨ましがって、自分のための犬を欲しがった山姥切長義に端を発した揉め事は、最終的に城に一匹の犬がやってきたことによって、ようやく収束したばかりだ。<br />　とはいえ、この仮想空間内で飼える犬はもちろん本物ではない。<br />　もともとはホームオートメーション用ＡＩでしかなかった南泉一文字の猫と違って、犬の方は市販されているペットプログラムを、仮想空間といえども特殊なこの城に合わせて調整を施したものだ。犬を飼いたがった審神者は初めてではないらしく、一度、城内で話がまとまったあとはあらかじめ南泉一文字が手を回していてくれたおかげもあって実装までは早かった。<br />「結局、ゼンて山姥切の犬じゃないんですよね？」<br />「誰のって言うなら俺のだよ。南泉が命令系統の一番上に置いてくれたから」<br />　はいはい、と胸を張る主は最初こそ慣れない大型の犬に尻込みしていたけれど、プログラムどおりとはいえ一番に慕ってくる様子にあっという間にほだされた。現実空間では犬も猫も触れ合えないので、四年近く過ごしていた仮想空間に対して初めて万歳したし、今では執務室で分担している世話係当番の中にもちゃっかり混ぜてもらっている。<br />「大将は俺たち全員の大将だもんな」<br />「そうだよ」<br />　本来、犬は厳密な階級のもとに生きているのに倣っているのと、加えてシステム上において命令の優先権をはっきりさせておく必要があるため、名実ともにこの城の主を登録しておく必要があるのだと主は聞いた。ついでに聞いたゼンのなかでのヒエラルキー最下位が誰なのかは黙っておく。<br />「でも名付けは山姥切長義がしたんだよ。南泉は甘いのか厳しいのかわかんないよね」<br />　甘い、のは要望通りの犬を用意したことで、厳しい、のは容赦なくヒエラルキー最下位においたことだ。山姥切長義と主は互いにゼンの周りをうろつくので以前よりは顔を合わせる回数が増えたが、その度に大きな犬に飛びかかられて地面とこんにちはしているところを見るのでこれまでとは別の意味で気まずい。<br />「あれは面倒がりなだけだぜ」<br />「でも山姥切長義のお願い結構聞いてない？　はんぶんが動き回るのも煮干し食べるのも後でつけた機能だって、ゼンの調整しながらいってたけど」<br />　はんぶんは最初は動き回るどころか、部屋の長持に貼り付けられたアイコンだった。そのうち、切り口もみごとなまっぷたつの猫になり、肉が見えて生々しいよりはとふさふさでまっぷたつの猫になり、最終的には部屋の中では首にリボンを巻いているちゃんとした一匹の猫になった。いまでは煮干しも食べる。そして、その過程すべてに山姥切長義の意見が反映されている。<br />「同じぐらい、山姥切にわがまま言ってるはずですよ。ここでは端っこの方で暮らしてますしボクたちもそんなに詳しくはないんですが、借りは押し付けて返させるものって二振りとも、以前から言っているので」<br />「そっかあ」<br />　あまり二振りが揃っているところに居合わせないから、南泉一文字が譲っている姿の方を多く見ている気がするのは仕方がないことかもしれないと主は思う。<br />「そうそう。部屋の我儘は南泉だろ。付き合い悪いもんな」<br />「そういえばさあ、俺、山姥切来てから暫くの間、色んな刀から山姥切はなんであんなところにって聞かれまくったんだよね。本刀は日当たりがよくていいって言い張ってたから裏があるんじゃないかって……。勝手に代弁すると大変なことになりそうだったから確認して全部山姥切に対応回しましたけども。部屋は！　本人の！　希望!!　だいたいあのとき主それどころじゃなかったじゃないですか」<br />「俺？」<br />　拳を振り回すほど元気になったらしい鯰尾藤四郎から唐突に話題に放り込まれて、主は首を傾げる。山姥切長義の顕現時以降一月ほどの記憶は、主にはあまりない。ずっと見ないふりをしていたトラウマとコンプレックスに直面して、一時期は仮想空間へのログインもドクターストップがかかっていた。<br />　近侍である明石国行とだけは毎日連絡を取っていたが、基本的には主自身の安否確認だけしかしていなかった。何が起こっていたか把握していた明石国行が口をつぐんでいたのなら、それは主が知らぬままでもいいと判断されたということだ。<br />「一足先にゲームの方で話題になってたんですよ。山姥切さん、モンペ多いから」<br />「モンペ……？」<br />　鯰尾藤四郎のいう「山姥切さん」は山姥切国広だ。まだ、励起された刀剣男士も少なくて、一の丸しか使っていなかった頃に呼び名で揉めに揉めた結果、そう落ち着いた。<br />　それはそれとして、山姥切長義の部屋の位置が山姥切国広のモンペなるものに関わってくる理由が主にはわからなくて近侍を振り返ったが、明石国行はただ首を横に振った。<br />「わからんならわからんでええですよ。胸糞悪い話やし」<br />　近侍の柔らかい声にそうか、と考えるのをやめる。主は自身が少し特殊な状況で育って世間知らずである自覚があるのだが、そもそもモンペという言葉がわからないということは口をつぐんでおいた。<br />「鯰尾もそこまでにしといてな？」<br />「はーい」<br />　ぷんすかしつつも、気は晴れたのか鯰尾藤四郎は寝転んでいた体を起こして、すっかり冷めた湯呑を手に取りぐいっと傾ける。<br />「大変だったんだな……ごめんな」<br />「主のせいじゃないですから気にしないでください。元気になってよかったですし、南泉がいなかったのが悪いんです」<br />「南泉がいないのはボクが幸運を運びきれなかったのが悪かったんですよ」<br />　主の采配のせいではと口を挟む前に物吉貞宗に遮られた。江戸城攻略に気合が入っているところは見ていたのに、当時は理由を知らなかったなと落ちない鍵を探して戦場をうろうろしたことと、長持を開けても開けても次の鍵が出なかった蔵のことを思い出しかけて慌てて首を振る。条件を揃えたら確実に励起できる刀剣男士のなかでは、江戸城組は簡単に行けそうに見えて運にとても左右されるほうだ。二段構えの運試しに心が折れやすい。<br />「物吉のせいじゃねえって。考えなしだった山姥切も悪い」<br />「ま、全部ですね」<br />　と、雑に一期一振が纏めた。<br />「山姥切も元気に駆け回っているうちに馴染んだしな」<br />「気にかけてくれてたあたりは、南泉の部屋の位置知ったら勝手に納得してくれたみたいだしね」<br />　各種施設から遠いし景色がいいわけでもない、ただ日当たりのいいだけの一角は猫に呪われ、猫のような基質を持ってしまった刀剣男士にはちょうどいいと思われたのだ。なるほど古馴染みのために確保したのだとそれぞれが得心して、ようやく静かな騒動は収まった。かわりに擬似的な離れのようなところで二振りで暮らしているような状況に別の疑念も生まれていたが、こちらに関しては他にも似たような状況で暮らしているものたちがいるためにいつの間にか立ち消えた。普段の二振りがあまり行動をともにしなかったことも一因だ。<br />「その南泉は来たら案の定、部屋から出てこねえもんなあ。端末に連絡したら反応あるだけマシだけど」<br />「あの変わりのなさに驚いたね」<br />　後藤藤四郎の呆れがこもった発言に一期一振がしみじみと頷く。もとは尾張徳川家で共にあった後に離れていた分、余計に感じるところがある。<br />「そんなにひきこもってはります？　そこそこ執務室には顔出されますし、書庫でも会いますよって」<br />　明石国行が不思議そうに首を傾げた。<br />「それは最低限の外出にたまたま行き当たるところにいるからですよ。私もここにいますので執務室で顔を見る頻度は分かりますが、本当に必要最低限ですよ。ただ、外に行く分こちらに顔を出すことがあるだけです」<br />　集団生活を送る上で最低限の規律は必要だろうとあらかじめ定められていることの一つに、出入りの記録を残すというものがある。この出入りというのはサーバー内移動は含まれないのだが、共通サーバーに設えられているほうの万屋への移動と、ネットワーク的に完全に切り離されているために一旦サーバーから物理的にログアウトの必要性がある南泉一文字の出向先への移動だけは執務室への申請が必要になる。自動的に記録される数字と、実際の数字の突き合わせを行うための措置だ。<br />「ああ……」<br />　深く納得した相槌になんとなく全員で共感してしまい、ふと室内が静寂で満ちた。<br />　それぞれがなんとなく手元の湯呑を傾ける。さすがに四年もやっていれば多少はうまくなった気がする一期一振のいれた茶はとうに冷めきっていたが、吹き出してしまうほどの味ではない。<br />「あの、話を最初に戻してもいいです？　主が知ってる事情は俺たちが聞いてもいいものですか？」<br />　呼んだのはその話もあったのでしょう、と鯰尾藤四郎が首を傾げた。<br />「うん。本人が言ったようなものだからいいかと。南泉は山姥切長義が傍に居ると寝かせてもらえないらしいよ。絶対に起こされるんだって」<br />「は？」<br />　あっさりと答えた主にその場にいた刀たちの目が丸くなる。<br />「山姥切長義が寝てても、傍で南泉が寝てるのに気付いたらすぐ目を覚まして叩き起こすらしい」<br />　伝わらなかったかと主がもう一度同じ内容を繰り返すと、いいですわかりましたと鯰尾藤四郎に遮られ、他のものもみんなそれぞれ頷いた。<br />「ええー。山姥切、そんなに横暴だっけ？」<br />「どちらかというと、南泉が許容してるっぽいほうが驚きでは？」<br />「というか、やっぱり山姥切、南泉の部屋に自由に入れるんですね」<br />「あっそれ思った。南泉の縄張り意識からすると鍵設定《セキュリティ》厳しそうなのに」<br />　主の意向で個々の部屋の出入りの認証はとても厳しい。基本的には部屋の主として登録されているものだけが扉を開けて中へと入れるのだが、兄弟刀などの身内が自由に出入りできるように個別に認証の設定をすることもできるのだ。<br />「山姥切も不法侵入しそうにないけど……でも南泉相手だからなあ……」<br />　殊更に遠慮というものを持たない二振りは端から眺めているだけではそれぞれの線引の度合いがよくわからないことのほうが多い。かといってわざわざ確認しておくほどのこともなく、同じ敷地内に暮らしているとはいえ、朝食以外では意図しないと顔すら合わせることはない程度に物理的な距離がある。<br />「でもその南泉相手にでも、さすがに徹夜明け叩き起こすのは罪悪感あるんだなって思いました。殺気怖かった」<br />「あれは鯰尾がよくないですよ。南泉は気にしてないでしょうけど」<br />　山姥切、何に怒ったんでしょうねと物吉貞宗が微笑む脇で、己に待ち受けている未来を思い出して鯰尾藤四郎が頭を抱えた。<br />「でもさあ、後でまずかったなって思うのに起こしちゃうんだな……」<br />「誰にでも自分ではままならないものはあるもんだよ。本当にもうどうしようもなくコントロールができないもの。だから南泉も山姥切長義に怒ってなかったろ」<br />　それは、許容の内側だ。借りは押し付けて返させるものといえども、そこに合意がなければ取引は成り立たない。<br />「そういえばそうですね」<br />「世話焼かせてましたものね」<br />「普段はそもそも距離とってるもんな」<br />「とりあえず鯰尾兄が絞られたあと、万が一あの二振りが喧嘩始めたら、主にはいい胃薬を薬研に見繕ってもらおうな」<br />「待って」<br />　いきなり挟まれた不穏な提案に主が慌てて口を挟むも、かつて同じところに所蔵されていた一期一振を含む四振りが一斉に遠い目をする。<br />「人の体を得て初めて、あの時の感覚はこれだなって思ったのが胃痛でしたね」<br />　きゅってなりましたきゅって、と物吉貞宗が言うのに明石国行と主以外が深く頷いた。<br />「一度始めると平気で数年続きますからね……」<br />「離れたところに陣取ってくれてほんっとよかった。物は壊さないけど周りに迷惑はかけるもんな」<br />「いっそいつもみたいに斬り合ってくれればいいのにさあ……本当に喧嘩するときには刀抜かないのなんなの」<br />「噂したら影っていうしやめようぜ……」<br />「そうですよ、気づかなければなかったことになるのだから見ないふりが一番です」<br />　古馴染みたちがそろってぎゃあぎゃあ騒ぎながらも震えているのを横目に、主に寄ってきた近侍が緑茶のおかわりを湯呑へと注いでくれた。<br />「ところでどういう流れでそんな話《ひみつ》きけたんです？」<br />「そのへんは個人のプライバシーなので黙秘します」</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2019-10-10T23:52:00+09:00</dc:date>
	</item>
	<item rdf:about="https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=45">
		<title>眠れない夜のための</title>
		<link>https://drd.cute.bz/us/gallery.cgi?no=45</link>
		<description>　暗闇の中、山姥切長義はぷかりと浮かび上がるように目を覚ました。たった今まで寝ていたはずなのに、不思議なほど頭が冴えていて、暗いところに慣れた目には部屋の様子がくっきりと映る。　必要最低限の調度品しか...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>　暗闇の中、山姥切長義はぷかりと浮かび上がるように目を覚ました。たった今まで寝ていたはずなのに、不思議なほど頭が冴えていて、暗いところに慣れた目には部屋の様子がくっきりと映る。<br />　必要最低限の調度品しか置いていない部屋は随分と広い。たまに、この二の丸の端のはしに位置する自室まで訪う知己たちには殺風景と言われるけれど、日々が暮らせるだけのものは揃えている。<br />　人が日々を暮らしていく上で、必ずしも有用なものだけを揃えているわけではないというのは知っていたが、己には関係のないことだった。<br />　それでもかろうじてこだわりを持って揃えたのは寝具で、寝台から掛け布団まで空いた時間にこつこつと万屋に通って誂えた。人の体を得て、人の真似事をするなかで、一番気に入ったのは布団にくるまって眠ることだったからだ。<br />　以前の、確たる体もないまま意識を溶かすようにつく眠りも好んでいたが、夜の闇の中で意識を水に沈めるようにつく眠りも悪くなかった。<br />　ときどき、ぽかりとうつろが生まれて一睡もできずに朝を迎えることもあったけれど、その理由はわかりきっていたので特に心配はしなかった。これまでは眠るときには必ず傍にいた古馴染みである南泉一文字が、いまだにこの城には顕現されていないというだけだ。刀剣男士の顕現はどうしても運に左右されがちなのでしかたのないことだと割り切ってはいたが、眠れぬ夜のその頻度が高いと寝不足になって、神経が参ってしまうのには困ったので寝心地のよさを整えることにしたのだ。<br />　目論見はある程度は成功して、中途半端に目覚めてしまう頻度は格段に減った。たまにどうしても寝付けずに朝を迎えたけれど、それは本当に稀だったし、頻度を測る前に年が明けて、山姥切長義にとっての安心が城に配属された。<br />　それからは、眠れぬ夜にすることは決まっている。<br />　厳選に厳選を重ねた寝具のうち枕だけを抱えて寝台をおりて、隣室へと繋がる襖に手をかける。本来ならば隣室といえども、訪うためには一度外に出て回廊を回るべきなのだが、自身では使わないくせに面倒だからと壁の一部を襖に変えたのは己ではなく古馴染みだ。用意されたものを使わぬほうが失礼であるので、今日も躊躇いなく襖を開いた。<br />　引手に抵抗があるのは隣室の管理人格《はんぶん》による認証が降りるまでの僅かな時間だけで、部屋の主である古馴染みはいつだって山姥切長義を拒むことがない。<br />　自室と同じように明かりが落とされて暗い部屋に足を踏み入れれば、馴染みのある暖かな毛玉がすり寄ってきたので手を伸ばして抱き上げた。部屋の中では雄の三毛猫のかたちを取っているはんぶんも首輪代わりのリボンをあげた誼か、過剰に構いすぎなければ相手をしてくれる。<br />　部屋の主は数日前から留守にしているから、目当ての寝台は空っぽだが、己の寝具一式を揃えるときに、一緒に誂えておいたものだから寝心地は保証されている。<br />　それに、古馴染みの不在初日に布団を干して、洗えるものは洗っておいたので心地は間違いなくいい。ろくに眠れずに帰ってくるだろう相手のために用意しておいたものだが、予定を超過しても帰ってこないほうが悪いのだ。<br />　寝台に枕を置いて形を整えてから、敷布と掛布の間に滑り込んで目を閉じれば、眠気はすぐに訪れた。</p><p>　　　　　　　§</p><p>　南泉一文字が、手伝いに呼ばれた先の新規システム《イベント》リリース直前デスマーチからなんとか抜け出して帰城したのは日付もとうに変わった丑三つ時のことだった。人に請われて手を貸すことに異論はないし、楽しんでもいるのだが人よりも頑丈に作られている分、遠慮なくこき使われるのだけは何度機会を重ねても慣れない。<br />　もちろん、助っ人だけを働かせるわけではなくて、人間たちも脆い体で同じぐらい働くのだが、それゆえにはらはらするのだ。とはいえ、回数を重ねた今となっては泊まっていけばいいのにと机の下に潜り込むものたちを見限ってももう罪悪感はわかない。連日の徹夜はあまり睡眠を取らずにすむ己であっても心が死ぬ。<br />　外との行き来が楽になるような設備を早いうちに整えてもらってよかったと思いながら、ゲートを抜け、主の執務室に顔を出して不寝番に帰城を報告する。手順こそ簡単になったが、セキュリティの都合上頻繁に行き来できないのは仕方がないような、もう少しなんとかならないものかと思う。戦うためにあるはずの己の本分を見失っているような気もするが、手伝いに駆り出されている先での戦いがなければ、そもそも、戦うこともできないんだよなあと欠伸をなんとか噛み殺して一の丸をあとにした。<br />　西暦二二〇五年に歴史修正主義者による猛攻が始まって、後手後手に回りながらも、敵の技術を応用し、なんとか過去へ送り込めるものの算段がついたところからまず検討されたのは、いかに戦力を維持し、拡大していくかということだった。<br />　眠っているものを励起することは、才さえあれば容易い。だが、ものの数には限りがある。分祀の案はすぐに出た。問題は、分祀した際に依代をもってしても存在の強度を保てないことだった。<br />　その後、人間からの信仰を強めればいいのではという提案から、まず認知度をあげなければという課題になぜＶＲゲームという手段に辿り着いてしまったのか、南泉一文字は知らないし、知りたくもない。<br />　だが、いくつか作られたうちの一つは当初の目論見を超えてヒットした。<br />　本来の付喪神には性別はなく、自意識こそあれども姿形もあやふやだった。しかし、ゲームが人に膾炙されるにつれ、目論見通り、付喪神たちの存在の強度が増した。人に慈しまれて生まれるがゆえに、認識されるだけでも十分なのだろう。また、副次的な効能として、審神者としての素質があるものを見いだせるようになったことが挙げられる。<br />　実働の本丸および刀剣男士のシステムがゲームを基盤にして構築されたのは、戦という非日常を日常にしなければならない審神者を慮ったのが一因だ。また、それまで確固とした肉体を持っていたわけではない付喪神が、身体があるという状況に慣れるために、意識のみをあらかじめ作られたポリゴン《アバター》へと移して動かせるというＶＲという環境は倫理的な問題も起きにくかったという理由もある。計画当初は、クローン体や機械体《ヒューマノイド》のを利用する案のほうが優勢だったのだ。それがデータだけで済むことになったので開発費や維持費も各段に削減された。<br />　また、ゲームのために作られた各刀剣男士のアバターがそのまま使用できるのも利便が良かった。人に定義され、認識された姿形は個々の審神者による能力によって生じてしまう分霊のぶれを最小限に留めることができたからだ。<br />　ゆえにゲームのサービスは実際の本丸の運営にとって大変に重要な意味を持った。刀剣男士はまずゲームへと実装されることによって安定した戦力の拡大をはかれるようになったのだ。また、顕現方法もなぞることである程度の志向性をもたせることもできるようになった。<br />　問題は、制作・運営会社が外部委託であるとはいえ、国家機密に関わるためにたやすく人員を増やせぬところに生じた。実働の本丸のシステムも彼らが引き受けざるを得なかったことも災いした。<br />　一言でいうと深刻な人手不足に陥ったのだ。<br />　それがどうして回り回って、実際に戦場に出るために顕現した刀剣男士たちがシステム開発や保守に関わるようになったのか語るものは現場には誰一人としておらず、ここ一年ほどの参戦である南泉一文字には窺いしれない。ただ、本丸に使われている技術に興味をもって己のように勝手に学習した挙げ句、赤紙が寄越されたのだろうことだけはわかる。<br />　しかも、ちゃんと給与も出る。人にあらぬものであるからこそ、対価は必要だと主張した人間がいたのだ。とはいえ、人の貨幣で支払われるため、南泉一文字には微妙に使いどころがなくて口座に溜まったままだ。刀としての本分である戦働きでも十分な給与を得ているため、余計に持て余している。初任給を寝具を揃えることに使い果たした古馴染みが、次月の給与をそのときにはまだ顕現されていなかった南泉一文字の分の寝具に使い果たしてくれたため、実のところ、どちらの給料もほぼ手を付けていない。<br />　基本的な衣食住がすべて保証されている城内で暮らしている分には貨幣はさしたる意味を持たないのだ。<br />　だからといって主に言わせるとかなりの金額である一月分の給与をすべて寝具につぎ込むような金の使い方もどうかと思うのだが、実際の寝心地は大変によかったので、感謝の言葉以外については口をつぐんだ。<br />　さすがにぐらぐらする頭をなんとかまっすぐに保ちながら、二の丸の端のはしにある自室へと外から回り込む。先に顕現していた古馴染みが気を利かせて確保してくれていた自室はどこからも遠いけれど、その一角に起居しているのが己と古馴染みだけなので夜更けに多少雑に物音を立てても気兼ねがないのが楽だった。<br />　設定に従って律儀に外の世界と同じ星と月の運行を守っている空は、外で見上げるよりもずいぶんと明るいから、道に迷うこともなく部屋の前にたどり着いて、隣刀と共同で置いた沓脱石から回廊に上がった。接触式の自動ドアへと改造してある襖に触れると、在室のサインが浮かんだ。<br />「来てたのかぁ」<br />　しまったなと思う前に襖が開いたので、つい足を踏み入れる。暗い部屋の中で、侵入者はちゃんと布団にくるまって寝ていた。今更、お互いの気配で目を覚ますほどの繊細さは持ち合わせておらず、遠慮なく寝台に近寄って枕元に膝を落とす。<br />　自己管理のできる古馴染みは顔色が悪いということもなく、規則正しい寝息を立てながらぐっすりと眠っている。<br />　いつもなら、この刀が己の部屋に入り込んで眠りに来るときには、相手が望んでいるように見ないふりをして部屋を出ていってやるのだが、今日の南泉一文字は疲れ切っていた。己の場所と定めた自室に帰ってきて、座ってしまったら最後もう立つ余力は残っていない。かろうじて、腰に差していた刀を抜き、大袖と草摺を外して床に転がして、寝台の縁に体を預ければ、瞼が自動的に落ちてくる。こんな体勢で寝てしまえば翌朝に後悔することはわかりきっていたけれど、ただ疲れていた。<br />　かわいそうになと意識が落ちる前に呟いたのは、間違いなく山姥切長義のためだった。</p><p>　　　　　　　§</p><p>「なんせん、起きて、なんせん」<br />　それを、泣く声だと知っていた。目からは涙をこぼせぬ強がりの、精一杯の泣き声だ。<br />　かわいそうにと憐れまれていることを知ってなお、怖いものを抱え続けているものだった。<br />「なんせん」<br />　幾度目かに呼ばれた名に合わせて、まだ重い瞼をこじ開けた。部屋の中は暗く、夜明けにはまだ遠い。光があるときにはさえざえとした様子を見せる銀色の髪も闇に沈んだまま、古馴染みの顔を彩っている。<br />「どうした……にゃ」<br />　改めて問いかけるまでもなく、起こされる理由は知っていた。<br />　わかりやすいものもわかりにくいものも要因はいくつかあれども、根本にあるのは不安だ。<br />　南泉一文字が目を開いた安堵に、山姥切長義は寝ぼけたまま柔らかに笑う。<br />「部屋の主である猫殺しくんがそんなところで寝ているからだよ」<br />　ちゃんと寝台に上がりなよと言われて、疲れ切ってはいたが少しでも眠ったおかげでなんとか動かせるようになった体をどうにか起こして、片側が空けられた場所に潜り込む。ちゃんと叩いて形を整えられた枕にありがたく頭を埋めて、狭い布団のなかで触れるか触れないかの距離にあった体温の持ち主を抱き寄せた。<br />　さっさといつものように何もかもを忘れて眠ってしまえとあやすために背中を叩いてやれば、すぐに腕の中の体からはくたりと力が抜けて、もとのように静かな寝息を立て始める。<br />　けれど、数日の徹夜を経て体も心もくたくたな自分は、今夜はもう眠ることが出来ない。<br />　かわいそうになと、今度は己のために呟いた。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2019-10-10T23:45:00+09:00</dc:date>
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		<title>おやすみお月さま</title>
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		<description>　ころり、と山姥切長義は布団の中で何度目かの寝返りを打つ。不毛だから数は数えていないけれど、そろそろ両手の指では足りないぐらいにはなっているはずだった。上掛けはとっくにぐちゃぐちゃになって体にまとわり...</description>
		<content:encoded><![CDATA[<p>　ころり、と山姥切長義は布団の中で何度目かの寝返りを打つ。不毛だから数は数えていないけれど、そろそろ両手の指では足りないぐらいにはなっているはずだった。上掛けはとっくにぐちゃぐちゃになって体にまとわりついている。<br />　体も脳みそもひどく疲れているのに、眠りに落ちる事ができないというのは苦痛だった。人の身に施される拷問のうち、眠らせない、というのはかなりしんどいものだと耳に挟んだことはあったが、たった一夜でもその辛さが何となく理解できるような気がしてくるほど痛切に眠りたい。<br />　普段はこれほどに眠れないことなど殆どない。どちらかといえば、夜に眠るのは好きな方だ。<br />　けれど、こうして眠れなくなるときは顕現してから何度かあり、原因は特定していないが、解消する方法はとっくに知っていた。ただ、辿り着くのが面倒なだけだ。それでも、これ以上寝返りをうつのも限界だった。<br />　ずきずきと痛みを訴える脳みそと寝返りをうつことすら苦痛だと叫ぶ体をどうにか起こして布団から這い出る。流石にめまいが酷くて立ち上がれないので手足はついたまま、襖を開けて外縁に出ればそこには先客がいた。<br />「あ？」<br />　明るい月の下で、金色が光って思わず目を眇める。<br />　外縁では猫の呪いに侵されているからか、随分な宵っ張りの古馴染みが独りで盃を傾けていた。<br />　ろくに回らなくなった思考が手間が省けたというのに同意して、手足から力を抜いてそのまま寝そべる。<br />「猫殺しくん」<br />　力の入らない手でぺたぺたと板張りの床を叩けば、露骨に呆れた顔が返ってきた。<br />「なんだ、また眠れねえのかぁ」<br />　そろそろ夜は冷えるし風邪引くぞと、南泉一文字は勝手に山姥切長義の部屋から上掛けを持ち出して、這い出したせいで開けっ放しだった襖も律儀に閉めてくれる。あれこれ小言が多い割に気が回るのは彼の美徳だ。<br />「猫殺しくんこそ程々にしないと、朝に起きられないのではないかな」<br />「一合しかねえからすぐ終わる……にゃ」<br />　古馴染みは慣れた手でくるりと山姥切長義の簀巻きを作り上げる。<br />「いい月だろぉ」<br />　もとのように座り込んで、盃を片手ににやりと笑う南泉一文字の視線の先を辿れば、目がくらむような真円が天に輝いていた。<br />「まぶしい……」<br />　眠れぬまま暗闇の中で転がっていた身には刺激が強すぎて、慌てて目を閉じると、笑う気配とともに掌が顔に降りてくる。いつも山姥切長義よりもわずかに高い体温が心地よくて、痛みにこわばっていたところがゆるゆると解けていくようだった。<br />　視界が塞がれても怯えなくてもいいし、警戒しなくてもいい、絶対に安全な場所にいるのだとわかっている体と思考が夜の闇にとけていく。<br />「おやすみ、ねこごろしくん」<br />「おやすみ」<br />　あまりの眠さにもごもごとしか聞こえなかっただろう言葉がちゃんと届いていたことに満足しながら意識を手放した。<br />　月がこんなに明るいから、きっと悪い夢は見ない。</p>]]></content:encoded>
		<dc:date>2019-09-19T21:16:00+09:00</dc:date>
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