オボルスのこどもたち 02.(ついすて/イデアズ/未来パロ/ありとあらゆることへの捏造/イデア、こどもをひろう)
魔法士というものはとかく秘密を抱えるものだ。魔法を使えぬ人間にとっては理屈もなく整合性もなく結果を得ることが出来る物が魔法だと思われがだちだが、実のところそれなりに厳密な法則に縛られている。魔法の発現もだが、魔法の使用そのものに関してもだ。魔法士は指先一つで人を生かせも殺せもする技術をその身に詰め込んでいるため、雇用目的を厳密化するため魔法士を雇うにも資格を求める国際法が存在する。様々な事情で批准している国はそれほど多くはないが、批准国のメリットとして魔力を持たずとも扱うことのできる高性能な魔導具の流通があるため、批准を求める声は今でも一部の魔法士や魔力を持たぬ人間の間では少なくない。
アズールが滞在していたのは、非批准国のうちのひとつであり、その中でも魔法士の多い国だった。もともとは数を減らしてきた魔法士を保護するための法に従う必要のない国でもある。ゆえにこの国で暮らすには魔力を保有していることが前提となるものが多い。家の鍵一つとっても、魔力がないとどうにもならないことがある。それでも、たまに生まれる魔力を持たぬ人間を蔑視する土壌がないのがこの国のいいところだとアズールは思う。
泊まっていたホテルは魔法士による魔法士向けに営業しているホテルで、あらゆる備品の利用に魔力を必要としていたが、これは魔力を持たない人間による干渉を防ぐための一種の防衛機構だ。唯一の例外が部屋の鍵のシステムで、これは基本的には利用者の魔力を宿泊手続時に登録することにより照合して解錠と施錠を行うのだが、魔力を込めていなければただの物理的な鍵として扱えるという画期的な物だ。もちろん、魔力と物理の併用も出来る。
今回の滞在で驚いたのは、この十数年前に開発されたばかりの魔力を込めなければ、ただの道具として扱える魔導具の導入率の高さだった。たしかに、この機構は開発した本人が仕組み自体は複雑なことをしていないからと、とあるサイトにオープンソースで公開された魔法回路が元になっているのだが、元を正せばそれはただのアイディアだ。それを利用し、実際に様々な魔導具へと応用した結果、魔力を持たない人間が扱える高性能な魔導具であるにもかかわらず魔力を込めなければ魔導具としては成り立たぬ中途半端な道具という名目の元で魔法士雇用国際法批准国外での流通を可能とした。魔法士が多数を占めるこの国のように批准する必要のない国において、魔力があろうがなかろうが等しく使える魔導具というのは夢のような代物だったのだ。
その魔法回路の開発者が当時十歳だったイデア・シュラウドだったと知ったときに、アズールは無駄だとわかっても特許料はと口にしたが、返ってきたのは匿名だったにもかかわらずしばらくどこかから命を狙われたという思いも寄らない過去だった。嘆きの島という外界から隔離されたようなところにいて、明確に開発者だと身元が割れていたわけではないにもかかわらず、だ。
シュラウドのこどもでなければきっと今も虎視眈々と身柄を狙われていたよと言われて更にぞっとした。