#私が1冊の本だとしたら最初の1行には何と書いてあるかフォロワーさんが**で教えてくれる をかいたやつ
@kirokabi3 両掌ですくった水は黒くてらてらとかがやき、少しばかり粘ついた触感をもたらした。口に含むものではないことは一目瞭然であるのに、からからに乾いた喉がこくりとなる。理性を眩ますような甘い匂いがそこらじゅうに漂っていて頭の芯がじんわりと痺れていく。
@ens_nm 強い海風の中、白い裾を翻して少女が堤防の上を駆けていく。さして広くはないコンクリートの上でたむろっていたかもめが慌てて逃げ惑い、空へと飛び上がった。僕は彼女が脱ぎ捨てていったサンダルを拾って一つ息をつく。ガラスを踏んで血を流すのを目にしたいようなしたくないような
@ens_nm 曖昧な気持ちは僕の足を鈍らせたが、彼女は振り返りもせずにただ一心に駆けていく。そのうちに海の上までも走って行ってしまいそうだった。
@maronu ぱたりと本を閉じるのはいつも決まった時間で、彼女の身のうちに時計があっていつでも自分を律しているのだとその頃の僕は思っていた。
@hisaki_token 店主が奥から出してきた布はひとめでわかるほどきわだっていた。おそるおそる指を滑らせればその手触りはあまりにもなめらかで吸い付くようで、言われたままの金額を支払う。これをよく研いだ裁ちばさみでしゃきんと切り刻むことを思うとひどく心が踊った。
@yashiro8888 部屋の中は光に慣れた目には随分と暗く、ただその中で闇色のはずの瞳が静かに光を放っていた。
@misaka_akari 手を離しては駄目だよと彼は言った。生い茂った木の向こうは切り立った崖で、足を踏み外してはおしまいなのだという。その言葉を疑うことがなかったのは己が幼かったからなのか、相手をただ盲目に信じていたからなのかはもう遠い記憶の中ではわからぬことだった。
@srmayu_tk ゆるりと振り下ろされたおおぶりの刃はあやまたず正確に標的の首を狩った。それはあまりにも静かになされたせいで、最初から最後まで見ていたはずなのに、何が起こったのかを理解するまでやや時間を要した。
@takamura0x0 土の中にある目に見えぬものが大事なのよと少女はわらった。いつだっていちばんだいじなのはめにみえないのだ。
@laomaoer 煙たいあなぐらのようなバーのなかで、指輪に覆われながらも細く美しいとわかる指がたんとカウンターを叩く音が不思議によく響いた。告げられた言葉がいっぱいの酒を要求しているのだと理解するまで少しばかり時間を要した。
@meganeranbu99 それはまさしく熱に浮かされていたのだろう。疲れは疲れではなく、ただいつだって気持ちよく酒を飲んだ時のようにふわふわとしていて、でも脳みその何処かがいつだけって警告を発するようにちかちかと明滅を繰り返していた。
@nghm0hk 靴を選ばなければと玄関にうずくまったまま少女は言った。色も形も大きささえも様々なそれはたしかに彼女が選ばねばならぬものであった。
@shika_de_shita 己の目にはこれ以上はないほどはっきりとうつる扉は余人には見えぬのだと知った頃にはすでに己は子供ではなかった。皆が探すその扉は目に見えぬからこそ畏敬を集めているのだと理解できぬほうが幸せだったのだろう。長い時の中でそれはもう随分とくたびれてしまった。
@saaaans111 片手で持つには少々重い本の中にはいっぱいの知識が詰まっているのだと習ってから、彼女は辞書を愛していた。たくさんの言葉はたくさんの世界を教えてくれたからだ。
@fu_jiyuu 足が竦むのはいつだって相対するものが未知ではなく既知であるからだ。知ってしまえば怖くないよと言われても、知ってしまったほうが怖いことは増えた。何事も知らぬことには期待も不安も抱かぬままでいられる。
@sakurai4tk 初めて訪れた工房は不思議なほど片付いていた。しかし壁一面の引き出しにはぎっしりと道具も材料も詰まっていて、あらゆるものがここで作られ、送り出されていくということを疑う余地はなかった。
@nanae_tl とろりとした粘土のある闇の中、むせるような香だけがそこには残されていた。足元にはかすかに光をたたえた花弁がひとつふたつと落ちている。
@takanoniwa じゅわ、という小気味よい音と、空腹を刺激する濃密な油の匂いが厨房に充満していた。なるほど、にくづきに旨いであぶらとはよくいったものだ。更にはほどよい熱気がこの後に控えている酒宴に最高のスパイスになるだろう。
@namusan_000 足を降ろした地面は音も抵抗もなくやわらかに爪先を食べた。踵までが飲み込まれる前にと早めた歩はまるで意味をなさず、すぐに頭の先までとぷりと浸かった。
@aoiiminn ひときわ強く吹いた風がはじまりの合図だった。抜けるような青い空はたかく、どこまでも行けるのだと信じられた。
@hakumaitaketa 彼女は食卓の小さなこどものための椅子の上で膝を抱えて座っていた。私が近づくと慌てて姿勢を正すように足が空を蹴って、そして、椅子から落ちた。
@takanoniwa ブザーが鳴って幕があがるまでの短い暗闇にはいつも胸がときめく。昨日と今日でも、昼と夜でも、同じようでいて違う、その時にしかない空気を吸うためにいつもここに座っている。
@rtk0530 掌に視線を落とす。十本の指はいつだって己の思うままに動いてくれていた。開いて、握りしめて、もう一度、開く。できることはまだたくさんあるはずだった。
@HA1NN
ここからはもうどこにも行けないのだと、少女は唐突に悟った。無数に咲き誇る花の中でただひとりでくちていくのだと。