緑の目の怪物
ぞわりと臓器の底を這う感覚をなんと言い表すべきなのか燭台切光忠は的確な言葉を知らない。
引き起こした事象は視線の先にいる白い佳人が彼には見せぬ顔でいる。ただそれだけだ。言葉の聞こえぬ距離では会話の中身も窺い知れず、わかるのはそれがけっして険のあるやりとりではないことぐらい。
いや、そもそも彼が誰かと諍いをするところを見たことはないし、聞いたこともない。四十数名がひとところにあるので日々の小さな衝突はどうしても起こるものだが彼に関しては何かが起こりかけたところで必ず彼自身から水がさされるのだ。
だから、彼が己に対して取る態度は本当に例外なのだと知っていた。
それでもなお、すべてがほしいと腹の底でささやく怪物を燭台切光忠は飼っている。