ノイズ(現パロ)
帰宅したら部屋が散らかっていた。それ自体はさほど不思議なことではなくて、どちらかと言えば先日拾ってしまった居候がそのまま居座り続けているここしばらくはよくあることだった。整然と整えられた部屋はあまり好きではないと何かひどい弱みでも握られてしまったかのような顔でいうひとに、彼が根城にするソファの周囲五十センチメートルほどなら床に物を置いてもいいと許可を出しているからだ。それでも、今日の散らかり様は尋常ではなく、そもそもソファのうえには人影がなかった。
「鶴丸さん?」
床に散らばった本や衣類を踏まないように気をつけながら、入口からは死角になるソファの裏側を覗き込めば探し人はそこにいた。珍しく丸まって寝ていて顔は見えないものの、耳からイヤホンコードが伸びて、床に落ちているタブレットにつながっている。画面は既に落ちて暗くなっていて何を聞いているのかはわからない。僕の私物であるカナル型の、密閉性の高いイヤホンは外の音をきれいに遮断する。起きていて僕が帰って来てることに気づいていないのか、眠っているのか、死んでいるのかは見ただけではわからなくて、手を伸ばしてイヤホンを外すとかくんと頭がこちらを向いた。ぱちぱちとあかるい金色の瞳が瞬く。
「おかえり、遅かったな」
もしかしたら寝ぼけているのかもしれない。誰かと暮らしていた名残なのかいつも律儀におかえりというその声が、常よりもずいぶんとあまい。ゆるりと体を起こして、目をこすろうとする手を掴んでとめる。
「こすったらだめだよ」
「ああ」
素直にこくりとうなずかれてやはり寝ぼけている、と思う。
「ご飯まで寝てる?」
「いや、起きる」
という言葉と裏腹にぐらりと上半身が倒れてもたれかかってくる。慌ててそれ以上滑らないように支えたけれども、これ我に返られたら殺されるんじゃないのかな、僕が。
「……何聞いてたの?」
思いがけないことを聞かれたかのようにこくりと首が傾く。
「いつものだ」
先刻、僕が外した所為で落ちていた片方のイヤホンを細い指が拾い上げて、僕の耳にねじ込んだ。同時にどこか聞き覚えのあるような駅前の雑踏が耳に入ってくる。言葉として聞き取るには遠い人の話し声、車のクラクション、遠くには駅のアナウンス——帰り道に僕が潜り抜けて来たばかりの音だ。
「静かなのは好きじゃない」
そういって彼が耳をつけたのは僕の心臓の上だった。